詩と詩人と似非批評
ただのみきや

犬を連れた二人の男が行き会った
血統書付きの犬を連れた方が自慢を始め もう一方に
「雑種なんか飼うのは時間の無駄だよ」
ああ 好きか嫌いか別として
そんな考え方があってもいいのだろう
もっとも犬たちには
どうでも良いことなのだが

近くで遊んでいた子供たちが
犬を見つけて寄って来た
血統書付きの犬は躾も行き届き黙って座っていたが
雑種は尻尾を振って嬉しそう
愛想よく吠えたり跳ねたり
「こっちの犬の方がかわいいわ」
そう 理屈を抜きにして
幼い心は自分の好みを知っている

誰かが決める犬の価値に
とやかく言う気はない
たぶん当の本犬たちには
どうでも良いことなのだろう

さて
血統書付きの犬にも雑種の犬にも蚤が住んでいたが
血統書付きの犬に住んでいる方が自慢を始め もう一方に
「雑種なんかの血を吸うのはやめときな」
正しいか間違っているかはさておいて
指でつまんで潰してやった
さぞやドロっとした血が出るのだろうと思いきや
蚤は渇いてカスカスだった
どうやら咀嚼力不足で
表面を舐めただけで吸ったかぶりをしていたようだ
きっと赤ん坊のように
目を瞑って力いっぱい乳を吸うような
渇いてはまた欲し
満ち足りては夢見心地で微睡むような
そんな幸福を体験する前に
添付しすぎたのだろう
知識は頭に蓄えるもの
知識を用いるのは知恵
知恵は心に宿るもの
だが感性は胚芽のように始めから備わったもの
添付できるものではない
学ぶことは良いことだが
学んで失うこともある
そしてそれをもう一度取り戻すことは
知識を得るより十倍も難しい

もっとも猫派のわたしには
あまり関係のないことだ
飼い主にはならない(なれない)
猫との関係は
時折カフェのカウンターで行き会う
謎めいた女性との片言の会話を楽しむようなもの
そう いつまでも謎を残したままでかまわない

あえて問われれば
黒猫派の詩人とでも名のろうか



         《詩と詩人と似非批評:2014年8月3日》









自由詩 詩と詩人と似非批評 Copyright ただのみきや 2014-08-03 16:34:34
notebook Home 戻る