「かえす」
小夜

ひらいてしまったてのひらに
はじまりは舞い込んで、やがてにじんでいく
窓枠を引いて外と内を分けて
でていかないよと言ってみても

手に入れることは失くすことだから
いつでもきちんと立てるように
大切なものは持たないことにした
失くしていいものだけ集めたつもりが
それすら手放せず重たくなった

でも違った
手に入れるんじゃなくて、お借りする
失くすんじゃなくて、お返しする
そうしてめぐりながら変容していく
だからもう会えない人のために
その人のいない世界へと
歩いていくことだってできる
あなたにいつかお返しする
あなたをいつかお返しする

覚えてもいない思い出が
高く抜けた空から
髪に背中に降ってくる
いつかだれかがわたしの肩を抱きしめた
その跡をたどるように
やわらかな名残りが降り積もる

振り返ることすらできない、
遠い、遠いところ

いつか終わるすべてのはじまりも
ひとつひとつ撫ぜていく
そしていつかあなたのいない世界で
きちんとお返しする


自由詩 「かえす」 Copyright 小夜 2014-07-21 00:40:04
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