ある失踪
梅昆布茶

タクが失踪した
親にも知らせず彼女ものこしたまま行方不明

刑務所から出て保護監察下ながらM工業で働いていた
将来独立するという意欲もこめて作った名刺ももらったのだが

僕が名義を貸して彼が月々きちんと払うはずだったスマートフォンの料金も残して

見慣れぬ外車が出入りしていた
金ちゃんからも彼が振り込め詐欺グループとの接触があるのではないかと

金ちゃんも見放しそうだ
僕は彼をよく知らないが金ちゃんの判断にしたがうしかないだろう

単純に考えても生命に背反する生き方は破綻するものだと思う
それでなくとも僕らは他の生命を殺し貪って生きて行かざるを得ないのだから

その場の辻褄合わせの生き方では永くは続かない
刑務所の壁の外にすぐに自由があるわけではないのだ

善悪を語る立場にはまったくない人間ではあるが
甘くたやすい方向へひとのこころは動く
奈落からつぎなる奈落へと

こころを抜きにしての自由はない

社会的更正を語る事は難しい
富は潤沢に在るようにみえて
貧困は覆い隠されさらに窒息してゆく

タクは失踪した
希望にも似た欲望を抱えて

もう手に入らないかもしれない
様々に身をやつした自由というものを置き去りにして





自由詩 ある失踪 Copyright 梅昆布茶 2014-07-13 13:40:26
notebook Home 戻る  過去 未来