あまりにしげく 星ながれたり(賢治)
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あなたも見つめているでしょうか2杯の碧い液体に浮いた2つの顔
あの誇らかな藍光タワーの上のほうに行ってみたいきもちはあるけれど
模型をいろいろに組み立てるクーポー手品に飽きてしまったのです
下に降りたらブルカニロ博士の横をすっと通り抜ける算段をしています
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壁にかけられた油絵は、裸体の男の子が石造りの建物のまえで
厚い鉄扉をこじ開けようとして大理石のたたきを踏みしめているのですが
夏の草花が絡み放題絡み合い荒廃した庭園の奥で
フェルメール聖母色に塗られたその扉はどうにも動くけはいを見せないのです‥‥
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数々の錯誤、慢性化した懈怠を重ね
喘ぎ声も信じられなくなった幾年かを過ごしてしまったあとでは
すっかり疑い深くなってしまったシーツを洗い更えたくらいでは何も変らず
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それら投げ合う言葉のあいまいさをかいくぐり
ぼくの欲望を彼の、また彼の身体
につなげようとするうちに
もやにくすぶる鏡は海の日没を映し出して茜色‥
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かつて知った感覚は脚と脚とのはざまにメルヘンを涌きたたせ
紅葉の木々を描いた深鉢の底、あの水面をぱさぱさと踏みわたり
睡蓮のはなびらはあなたのまわりにあふれ
跳ね上がったしぶきはぼくをぐっしょりとぬらしているのに
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いつかぼくは湖水の深い深い底に沈み
はしゃぐふたつの身体たちを下からじっと見つめているらしいのです
そしてとなりにも誰かいるのか?‥この不安をおさめるためにキスはしない‥
しかし不安をあおるためならば、むしろよろこんで‥
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2つのグラスは、気づけばすでにからになっていて
映っていたのは誰の顔だったか思い出せぬまま
新しいことはいいことだ、大海原に船を出せばきっとなにかいいことがある、と潮風を胸いっぱいにすいこみ
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なにかきっと恐ろしいことがある、なにがあろうとこの岸にさえ戻って来なければよいのだなどと嘯いて
口笛を吹いて船の上‥軽佻に歩みだす対岸の岸辺‥ともかくひとりではないらしく
壁を見上げれば裸体のエロス
*1、扉の縁には黒い線がやっとひとすじ浮いているのが見えて
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