バーゲンセール
そらの珊瑚

小さな靴の愛おしさを
ときおりこうして取り出してみる
小さな足はもう消えてしまったけれど

バーゲンセールは年々前倒しにやってくる
梅雨が明けてもいないうち
夏服には割引の赤いタグがつけられ

買うあてのない
子供服売り場のなんて楽しいこと
「何かおさがしですか?」
生真面目な店員の言葉さえ
なぜかほほえましい
 さがしているのはふたたびは戻ってこない季節なんです。

袖を通そうと待っている
名前も知らない
小さな腕、
関節の閉じたくびれ、
てのひら、
うすい爪
その子たちはみな
おしなべて汗かきだから
やわらかな肌触りの布地がいい
白色を混ぜたような色がいい
やっと見え始めた瞳が
世界は優しいものだと映すように
原色の世界へいずれ歩き出すまでは

命はみな小さく生まれてくる
大人の縮尺ではなく

ベビーカーで寝ている
誰かの赤ん坊も
きっとそんなのを待っている
ずっとそのままでいてくれるのなら
わたしは
このままさがしつづけていたっていい
そのうち季節は膨張して
原色の夏がおしよせてくることだろう


自由詩 バーゲンセール Copyright そらの珊瑚 2014-07-03 08:59:46
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