聞こえた
nonya


読み人知らずの
ささやかな空気の振動を
耳たぶでそっと掬って
外耳道へ流し込む

外耳道の突きあたりの
気弱すぎる鼓膜のときめきを
耳小骨は丁寧に拾い集め
蝸牛の殻に押し込める

蝸牛の殻の中の
悩ましいリンパ液の対流に
苛立った有毛細胞の
貧乏ゆすりは電気信号になる

電気信号フリークの
自意識過剰なラセン神経節細胞は
嬉々としてそれをツイートし
お節介な内耳神経が
さらにそれをリツイートするものだから
すぐさまそれは大脳庁の知るところとなる

大脳庁の直轄機関である
大脳聴覚皮質のラボに送り込まれた
読み人知らずの
ささやかな空気の振動は
ただちにつぶさに解析され
またたくまに正体が解き明かされる


すなわち


聞こえた


声と君が




自由詩 聞こえた Copyright nonya 2014-06-21 14:51:01
notebook Home 戻る