「雨ごい」
桐ヶ谷忍

雨の日だけ訪れるひとがいる
水を滴らせながら、入れてもらっていいかな、と
私は玄関を大きく開け
タオルとホットミルクを渡す

他愛無い話をぽつりぽつり
このひとは愚痴や怒りを表さない
ただ弱々しい笑みを浮かべ
時折窓の外に目を遣る

そうして雨が止むと
来た時と同じように静かに
玄関を出てゆく
私は見送るだけ

晴れの日にあのひとが
誰とどんな表情で何を話しているのか
私は全く知らない
それでも

雨の日だけは
多分私だけしか知らないあのひとが来る

だから私は
タオルには柔軟剤を欠かさないし
ミルクはいつも買い置きしてある

けれど
このところ晴れてばかりいる
あのひとが来ない

今朝もうらめしいほどの青空だ
ベランダに出て
黒い雲はないかと睨むように探す
天気予報でもアナウンサーはにこやかに晴れを告げる

あのひとの顔が見たい
訥々としたやさしい会話を交わしたい
あの、不安そうな目に一抹宿るやすらぎがほしい

雨よ

雨よ、どうか降って


自由詩 「雨ごい」 Copyright 桐ヶ谷忍 2014-06-08 06:04:40
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