傘が行く
nonya


傘が行く
三叉路の紫陽花を横目に

靴がついてくる
水溜りをかろうじて避けて

身体は押し黙る
雨音の朗読を聴くともなしに

思考は潜り続ける
内側の後方の下部の
定位置に落ち着こうとする

発火の心配がない湿気った不満が
坂道に貼りついた新装開店のチラシを
極めてさりげなく踏み躙る

苛立ちが諦めに変わる速度で
ズボンの折り目は消えていくから
もう大根役者の真似をしなくてもいい

雨が嫌いじゃなくなったなんて
何処かのポエマーのあわぶくが
思考の水底から上がってくるけれど
決して口元で弾けることはない

梅雨の入り口に
柔らかな石になった思考と
湿った皮袋になった身体を
置き去りにしたまま
傘が行く

傘だけが
水の境界線を越えていく
従順な靴を引き摺りながら




自由詩 傘が行く Copyright nonya 2014-06-06 21:44:18
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