突き抜けるまでの秒針
芦沢 恵

裏から表までの30メートルに世界があった


国道1号線を命かけて 一目散に横切るのだ


安楽の幅2メートルは ユートピアへの出入り口


たった20センチメートル背中の側をかすめ 疾走するは気狂った・・・




私は風圧に押されユートピアを一気に突き抜けてしまったのではないのかしら

表まで出てしまったのに 振り返っても裏の入口は見えなかった




壺焼き芋を焼く老婆 柿の木に登る従兄弟 売れないタバコ屋の留守番娘




裏の入口 はじめからそんなもの無かったから

に 違いないのだと泣かないことにする



出入り口だと思っていた裏の入口などを


命かけて横切ったから だから柿の木の枝に座る従兄弟には会えなくなった





秒針が止まったまま 割れたガラスの中でじっと時の動き出す機を待ったが

 


自由詩 突き抜けるまでの秒針 Copyright 芦沢 恵 2014-05-31 01:08:44
notebook Home 戻る