かりんの花
小原あき

かりんの木の花が
小さなピンク色しているの
ずっと知らなかった



きみは確かに
かりんの木の下にいて
かりんの実が落ちたのを
いつもくわえていた
おもちゃで遊ぶことを知らないきみは
もちろんかりんの実を
おもちゃにするわけではなく
ただかじっていた

真っ黒くなったかりんの実を
美味しくなさそうなかりんの実を
ガリガリかじって
ただかじって
それしか暇潰しを知らないかのように
いつもかじっていた

きみがかじっていた実がなるかりんの木は
もうなくなってしまって
きみももういなくなってしまって
代わりに植えられた芝生は
すっかりそこに定着したよ
その芝生に
最近、小さな足が
裸足で歩くことを覚えたけど
それはまた別の話

かりんの木の花を見つけて
きみに話しかけてみたくなったのは
なんでだろう
きみはただの犬じゃなかった
ただそれだけのこと

下ばかり見ていたから
きみがいなくなって
こんなにも経ってから
そこに花があるのに
やっと気づいた

春の花は
なんでも愛らしいね






自由詩 かりんの花 Copyright 小原あき 2014-05-09 17:16:34縦
notebook Home 戻る  過去 未来