なにかが ある 三部作
るるりら

「見えない人」

耳の不自由な人との 暮らしは
目も不自由な人との 暮らしは
あんがい 子供の頃に抱いていた夢が
叶ったのかもしれないな
子供の頃は 透明人間になりたかったのだった そうだった

今のわたしは、ちょっと返事をしないでいるだけで 
透明人間になれる
存在が簡単に 透き通る 
今日も緞帳があがり 

“ジャ、ジャ、ジャ、ジャーン”今世紀最大の見せ場 
あなたに見えてないのは解ってるけど 私は絶世の美女さ
魂は美人なのさ

あら ふしぎ 魂って
 「鬼って云う」って書くのだね
ほら こんなに見えない力が 満ちてくる


「弾けない人」

オルガンを弾く指は しらうおのようだと良いのだと先生は言いました
あなたはとても うちの教室では無理ですけど
先生は とても優しいので
御宅にうかがって 個人練習をいたしましょう

御月謝も みんなと おなじで良いですよ
先生がそんなことをいうものですから うちの母さんは 大喜び
あら おおきな兄さんがいらっしゃるのね
いえいえ 先生 この間 教室にきてたでしょ おとうさんだよ

お兄さんじゃないの
あなたの指と指の間をハサミで切ると
あなたの指でも上手に弾けるようになりますよ

おとうさんが おにいさんじゃないので 先生はハサミを私の指にあてました
オルガンはある日 鍵盤だけになってました
金槌や鋸で母さんが壊しました/音楽は いまも泣いています



「届かない人」

いーくんのことが好きでした
ぴんぽんだっしゅが 上手でした
かまきりのおなかから なぞの黒い紐をだすのも上手でした

怪我をしたら
いーくんの お母さんが ちりょうをしてくれました
うちの母さんは 唾つけとりぁなおる いうてましたのに
じょうりゅうな ひととして てあてということをしてくれました

いーくんは ある日
とおく 行きました
えいえんに、 わたしは いーくんのことが好きだと思いました
いまも いーくんのことが好きなんだとは思うけれど

いーくんの お母さんが ゆびに まいてくれた
絆創膏のことしか おもいだせないのは
なぜでしょう

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メビウスリングさんの企画 http:// mb2.jp/ _aria/8 44.html


自由詩 なにかが ある 三部作 Copyright るるりら 2014-05-06 02:02:20
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