林檎の花の咲く前に
砂木

桃の花が咲き 蜂が盛んに飛び交っている
林檎畑の中に二本ある 出荷しない桃の木
嫁いだのに 実を選るのは担当だと言われ 
なんで私がと思いながらもなんとなく親しみ
桃ちゃん と呼んで会うのが楽しい 
今年も桃色の花をつけて 綺麗だね 本当に

父の死による 林檎畑縮小のため 
桃ちゃんも切られると思っていた
林檎の木は 七十九本切った
切るならば同じ場所を切らねば
共同防除の薬散布の迷惑にもなるので
今 育ちゆく若木も まだ林檎のなる木も
そろえてすべて切った

それは家族が生きて行くために必要な事で
それでもまだかなりの林檎と梨の畑がある
父さん ごめんなと言いながらも
やりきれない私達は切り捨てながら進むしかない
苦楽を共にしてきた母だからこそした決断
みずから雪が折るように枝の支柱をはずした母
父の林檎は 母の林檎 ごめん母さん
兼業農家を続けて行くしか 今 選択の余地はない

よく桃ちゃんを切らなかったなあ と母に言う
俺だって人だ と 弟が母に言ったらしい
かろうじて生き残る範囲にいたらしい

根だけにされた林檎の木が いくつかの山盛りになっている
数年かけて 腐らせるのか 燃やすのか
人が倒れないように 倒された林檎の木々
降り止まない雪を黙々と払い 父が守った林檎の木々
だども父さん なんぼがだば ずっとのごるべおの
気休めでしかないけれども 今ある力はこれだけだ
じいちゃん ばあちゃん とうさん 

桃の花が とても綺麗だ
蜂は 何も知らない





自由詩 林檎の花の咲く前に Copyright 砂木 2014-05-04 13:45:32
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