葉leaf




ぎっしりとデスクの並んだ職場で、社員たちは互いに協力しながらてんでに仕事をしていた。データを入力したり、書類を作成したり、文書を印刷したり、メールを確認したり、同僚と打ち合わせたり。私は職場に配属されたばかり、ミスをしては指摘され、少しずつ正しい仕事の仕方を学んでいるところだった。まだ社員たちがどういう人かもわかっていず、漠然とした不安を抱きながら、やることに自信が持てずに、きわめて不安定でありながら硬直的に仕事をこなしていた。社員たちの機械的な手際と動きは、乱れることを知らないかのような人工的な秩序を形成していた。

そのとき、窓の外に大きな虹がかかった。中年の女性の係員が虹の存在に気付いて、「虹!」と周囲に注意を喚起した。課長から部長から、みんな窓の方へ寄り、大きな虹の美しさに見とれた。それまでの人工的な仕事の秩序はきわめて柔軟に連携を解かれ、職場には自然美とそれを眺める一群の人々という、規律も労働も何もない風のような時間が流れた。やがて、社員たちは次第に元の人工的な秩序に再び組み込まれていった。

私は、この虹の出現によって、何かが種明かしされたかのように感じた。未だ馴染めていない職場の物質的に見える機械的な社員たちの動きは、実は手品のようなものであり、それを動かしている本当の原理が明らかになったように思えた。自然の美しさに仕事の手を休めて眺め入る人々の優しい空白がとても美しく、その美しい感受性が仕事のすべてを根底から支えているかのように感じた。手品の種は、不意の美しい出来事によって鮮やかに明かされた。


自由詩Copyright 葉leaf 2014-05-04 11:50:02縦
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