溺れる人魚
そらの珊瑚

指の絆創膏をはがしてみれば
血は止まったものの
いまだ なまめかしく
傷はそこにあった

たった一日
空気を遮断されただけで そこは
色が蒸発したように
あっけらかんと白く
まるで湯上りのように
ふやけていた

絆創膏は人工の皮膚である
として
もしかすると
皮膚は
何か別のものに
――臓器とか、そんなようなものの類
なろうとしていたのではないか

再生という
不思議なからくりが
予感だけでしかなかった
死を
波に運ばれていく小舟のように
沖へと
遠ざけていく


日常という透明な空気に
満ち満たされたこの世界が
遮断された
として
そのとき私は
別のなにものかに
――えら呼吸を獲得するとか
なろうとするのではないか

ひとさし指が示すのは海の方角
……へ。
私の末端に残る傷が
むき出しにされて
皮膚であったことを思い出したのだろう
潮風を吸って
ふたたび痛む



自由詩 溺れる人魚 Copyright そらの珊瑚 2014-04-16 11:50:46
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