カレーライスは悲しんでいる
ブルース瀬戸内

カレーライスは悲しんでいる。
君はそのことを知っているか。
玉葱のせいなんかじゃないし
自分が辛すぎるからでもない。

ラッキョに嫌われたわけでも
ラッシーに悟られたわけでも
スパイス疲れなわけでもない。

自分がカレーライスなことに
幸せなカレーライスなことに
ついぞ気がついたからなのだ。

自分が何者か判明してしまい
自分を取り巻く環境を知って
幸福なことも明らかとなって
もはや身動きができないのだ。

カレーライスは悲しんでいる。
君はそのことを知っているか。
自分を知るのは素敵なことで
自分を知るのは悲しいことだ。

無限ではなくて有限な自分に
少しがっかりしてしまうのだ。
分類されてしまう自分の姿を
どうも受け入れられないのだ。

カレーライスは悲しんでいる。
君はそのことを知っているか。
人の物差しと自分の物差しを
ごっちゃにしてしまうことで
何を相対化したらいいのやら
何を絶対化したらいいのやら
前後不覚になるなんてことを
なんとか避けたいものである。

テキストの裏側にある言葉が
力を持つ前に自分を確立せよ。
テキストの表側にある言葉に
自分を縛りつけてはならない。
カレーライスよ、君は深淵だ。
深淵なうえに世界一おいしい。
世界を知らない私が断言する。
カレーライスは世界一である。

カレーライスは悲しんでから
カレーライスはかなり喜んだ。
カレーライスはカレーライス
君はそのことを知っているか。


自由詩 カレーライスは悲しんでいる Copyright ブルース瀬戸内 2014-03-12 23:18:34
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