我鬼窟主人と飢餓靴女
salco

芥川龍之介とマリリン・モンローは
 
 一、生母の狂気遺伝にぼんやり怯えていた
 一、心身疲弊と神経症状に苛まれていた
 一、常用眠剤プラスαで眠り死んだ


傑出の質量はあたかも
恒星の急激な収縮のごとく
往々にして悲劇的宿命を負うのだとすれば
天才とはやはり
芥川が執拗にのたまう「良心なき神経」
その感度と精度に違いなかった
かくてドラゴンチャイルドは
特異な苦悩の罹患に至る

電柱に等しい同輩に対し
 菊池寛、堀辰雄なんか誰が読む?
 鈴木三重吉、宇野浩二 誰だそれ?
天才だけが時流の淘汰を残り
意義を示す
その創造が
おぞましい脳の隔絶によってのみ
生み出されるものであるならば
凡人の有り体こそは幸福の切符だ
 実証なき自負に通行証の謙遜
凡人の浅薄と愚鈍こそ幸福の源だ

例えば女「性」イメージの傑物として
最もあまねく認知される女「優」
今世紀も引き続きシンボライズされ
無限再生されるマリリン・モンローは
ショーやアインシュタイン
同時代の頭脳傑物と好んで対照され
ジョークの常套とされるように
双璧をなす天才だったのだ

一時代の君臨を超える
その造作は何故なら天賦ではなく
若干の外科工作とたゆまぬ工夫
あの下顎も色を重ねたリップラインも
流し目つけぼくろも
あの時代にジョギングをしエクササイズし
ベンチプレスまでしたのも
発声や歩き方同様の頭脳労作
リタ・ヘイワース亜流から抜きん出
ジーン・ハーロウ亜種から脱する為の
努力の賜物だったのだ

厄介者でなければ慰み物として
壊され続けた自己存在への承認と庇護を求め
おっぱいの紡錘とありったけの嬌態を武器に
階段を駆け上がったノーマ・ジーンの
それは転生と復権を求めた創造であり
おっぱいと嬌態をしか認めぬ世界で
孤絶の錯乱に終わった戦いだった
 三十六歳二か月
自作の虚像からも落伍して行った
惜しみない微笑の敗北

一方
貰われ寵児で頼られ病者
並はずれた知力が躍る大脳半球の痔主
透徹の自我も自滅に突き進む
 三十五年と四か月
何しろ芥川龍之介が笑おうとすれば
むごたらしい乱杭歯の展開であった


自由詩 我鬼窟主人と飢餓靴女 Copyright salco 2014-02-04 23:44:59
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