小さな生き物





見晴らしの良い青い野原に
中身をなくした弁当箱が転がり
子供たちは それぞれに
昆虫採集を続けている
カマキリが
キリギリスが
モンシロチョウが
それぞれのやり方で息をしている
そんな世界で
虫取り網を片手に
手に入れるための
ありとあらゆる努力をする


大人たちはそれを
それぞれの笑顔で見守っている
楽しげに 悲しげに
ゆっくりと夕暮れる景色の中
手に入らないもののことを想っている


小さな生き物は
そんな彼らを草陰からじっと見ている
虫でもなく
人でもなく
小さな生き物として
ありのままの風景に
少し斜めに溶け込んで 
息をして 生きている

小さな生き物は
壊さない
手に入るものも
手に入らないものも
目の前にあるすべてを
壊さない

小さな体の中に
雲一つない空を抱えて
いつ降るかわからない 
激しい雨のことを想っている

そして誰にも聞こえないように
零れ落ちそうな歌を そっと響かせる


歌声が空に溶けだす頃
誰もいなくなった青い野原で
空っぽの弁当箱と
空っぽの虫籠が
競う合うように 宙を舞い
そして悔しげに 落ちていった

それを照らし出した
薄く冷たい月が
雨になれない雲と共に
静かにため息をつく

小さな小さな歌声を
拾い集めるように
耳を澄まして
耳を澄まして





自由詩 小さな生き物 Copyright  2014-01-30 19:56:43縦
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