極私的レコメンド:11人の詩人による11編の詩
大覚アキラ

藤永健さんの『もうすぐ現代詩フォーラムがができて11年経つという事実と11のレコメンド(http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=283829)』に触発されて、ぼくも同じコンセプトでレコメンドを選り抜いてみました。

ここに挙げた作品の他にも、この現代詩フォーラムには優れた作品が山のようにあります。「なんでアレが入ってないの?」という声も多々あるとは思いますが、このレコメンドを選ぶにあたっては、ポイントの多寡や技巧的な巧拙を基準にするのではなく、あくまでも、ぼく自身が「繰り返し読みたいと思うもの」を選んでいます。他にも採り上げたい作品は多々あるのですが、悩み抜いて11編、選びました。ちょっと長いですが、是非それぞれの作品もお読みいただけると嬉しいです。


 = = =

山内緋呂子さん
『一回目が好き(合いの手入り)』

http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=18513

ものすごく想像力を刺激される作品。エロスが単なる“エロ”に染まってしまう、そのギリギリの境界線上で言葉とイメージが戯れ合っている。最終節の3行の投げ遣りさも効いているよね。ここで目玉焼きを焼いたりトーストをかじったりしてしまうと、いきなり所帯染みた陳腐な恋愛詩の匂いがプンプンしてくるのだろうけれど、チョコポッキーだけ食べさせて追い出した(笑)。そこが、タイトルとの整合性をも感じさせ、この作品の見事なバランスを成立させていると思います。

 = = =

石畑由紀子さん
『焼肉情事』

http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=8021

作品の中でも語られている「二人で焼肉を食べている男女は、そういう(男と女の)関係である」という、よくある下卑たオトナの視線をモチーフにしながら、とっても切ない作品。ところどころに挿入される男の台詞の無神経さと、主人公の内面で繰り広げられるモノローグの対比が鮮やか。これにメロディをつけて、aikoにでも歌ってみてほしいなあ。健さんがレコメンドしている『上海された』も、是非読んでほしいです。

 = = =

チアーヌさん
『かわいい匂い』

http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=20788

チアーヌさんの作品から一編を選ぶのはなかなか難しかった。好きなのが多すぎて(笑)。悩み抜いた末、これを推すことにしました。“女性性”というような言葉はあまり使いたくないんだけど、チアーヌさんの作品の多くが、女性性を軸にしているのを感じます。男には書けないものを描いているなあ、という印象。中でもこの作品は、男には絶対書くことのできない、そんな作品。と言いながらも、これはチアーヌさんの作品の中ではむしろ異色だと思う。

 = = =

青木龍一郎さん
『石井が死んだ』

http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=151962

こんなに不思議な詩を、ぼくは他にあまり知らない。失礼を承知で正直にいえば、この作品は決して技巧的には優れてはいない。何が言いたいのかもよくわからない。にもかかわらず、この詩には、ぼくの心をつかんで離さない強烈な何かがある。数ヶ月に一度は読み返してしまう。これは何なんだろう。

 = = =

みいさん
『ごらん、ゆうぐれる』

http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=17732

これはねえ、意味とかあんまり考えないで読んでほしい。この作品に連ねられた言葉を、あなたの目から取り込んで、脳からつま先まであなたの身体ぜんぶをフィルターみたいにして透過させて、そこに湧き上がってくる映像や匂いや音や湿度や、そういう様々な感覚をぜんぶ感じてみてほしい。上手く表現できないんだけど、いろいろなスイッチを押されると思います。この詩について語る時には、“イメージ”っていう言葉を使うのが、なんだか陳腐に思える。そんな詩です。

 = = =

ヘンナー・キョニューりな
『ちひろ/山手線』

http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=196121

現在は、「ちんすこうりな」名義で現代詩フォーラムに投稿している作者。彼女が以前の筆名で投稿していた作品です。
この作品のタイトルに含まれている“ちひろ”というのは、漫画家・安田弘之の『ちひろ』に登場する主人公のことだよね。ちひろは風俗嬢。自由で、優しくて、でもちょっと残酷で、そして孤独。あ、これじゃあ漫画の“ちひろ”の話だな。たぶん、世の中の女の子の半分はこの作品にすごく共感するけど、残りの半分は全然共感できないと思う。性的倫理観みたいなものをとっぱらっちゃえば、これほどロマンティックな詩はあんまりないと思うんだけどな。

 = = =

Tsu-Yoさん
『麻雀』

http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=118602

この作品については、現代詩フォーラムとは別のところでコメントをしたことがあるので、ちょっと長くなるけどそれを転載させていただきますね。
以下転載。

「いいか、坊や、死んだ奴は負けだ。負けた奴は裸になるんだ」
麻雀打ちの多くが知っているこの言葉。そういう現実に自分が立たされたとき、そんな言葉を口にできる人間がどれだけいるのだろう。きっと誰もが心の中で「最低だな」と思うのが精一杯だろう。
この作品には、麻雀を打ったことのない人には理解できない空気が流れている。しかし同時に、麻雀を打ったことのない人にも確かに伝わる何かが一本の芯として備わっている。それは、
>運が良い、とか
>運が悪い、とか
>そんなものでは片づけられない何か
が、人生には確実に存在するという事実である。
麻雀というゲームは人生そのものだ。優れた技術を持った百戦錬磨の打ち手が、馬鹿ヅキのド素人にコテンパンにやられることもある。配牌で国士無双13面待ちテンパイなのに、上がれずじまいということも、可能性としてはある。ボロ負けのオーラスでトビ寸前の状態から、ダブル役満を上がって奇跡の逆転だってあり得る。それこそが、麻雀の面白さであり、儚さである。そして、人生もそういうものなのだろう。
死んでいった人間に対してかける言葉なんて、ぼくたちは何も持っていないのだ。ぼくたちにできることといえば、「最低だな」と思いながら、それでも麻雀を打ち続けること、言い換えれば、最低な現実に踏みとどまって、人生と闘い続けること、それだけだろう。

 = = =

043BLUEさん
『かきフライ』

http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=35066

本当は、あんまりこういう“グッとくる”感じの作品は採り上げないでおこうと思ったんです。いや、あんまり深い理由はないんですけど。でも、迷った末にこれを入れることにしました。こういうのって、子どもの語り口調で書かれると、どうしてもグッときちゃうでしょう。きますよね。ずるい。でも、そういう技巧的なあざとさ(ごめんなさい)以上に、この作品の本質にあるどうしようもない悲しみのほうが、くっきりと際立っていると思うんです。

 = = =

いとうさん
『Imagine. And imagine.』

http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=3595

嫌悪感を催しますか?目を背けたくなりますか?想像するのもまっぴらですか?でも、一度頭の中に浮かんだイメージは、ことあるごとに何の前触れもなくあなたの脳裏に蘇るはず。この詩をどう読むか、この詩から何を感じ取るか、それはあなた次第。必要なのは、イメージすること、それだけ。

 = = =

ともちゃん9さいさん
『ふかい』

http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=167861

今回挙げた11作品の中で、これは是非とも音源として聞いていただきたい作品。ぶっちゃけ申しますと、わたくし、ポエトリーリーディングとかそういう類のものが結構苦手なのですが、この、ともちゃん9さいさんは別。特に、この『ふかい』という詩は、何回読んでも(何回聴いても)、いい。独特の揺らぎを伴いながら自在に変化する速度とテンション。テキストと併せて、是非聴いてみてください。

http://youtu.be/jyUCmQIp_6s

 = = =

かいぞくさん
『終える虹殺しについて』

http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=157001

かいぞくさんといえば『いるかのすいとう』が、この現代詩フォーラムにおいては一つの金字塔のような作品として挙げられる詩人だと思うし、ぼくも『いるかのすいとう』は大好きだけれど、敢えてこの作品を推す。瑞々しく、透明で、しなやかなのに鋭く、心に刻まれて忘れられない一編。わずか20行の中に、世界がある。これまでに、もう何回読み返したかわからない。

 = = =

馬野幹さん
『ラストオナニー』
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=125719

11人の最後は、やっぱり馬野幹さん。この人は、なんていうかもう、存在自体が“詩”みたいな人。この『ラストオナニー』については、以前、批評祭の時に雑文を投稿させていただいているので、そちらを参照していただければ。

「【批評祭参加作品】馬野幹のやさしさについて」
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=201430


実は、馬野さんについては、他にもこんな雑文を投稿してます・・・

「詩的インプラント 〜 馬野幹氏に捧げる鼻歌 あるいは馬野幹宇宙人説 〜」
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=59382

「■批評祭参加作品■馬野幹への恋文」
http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=100255

 = = =


・・・以上、11人の詩人による11編の作品を挙げてみました。
いわゆる批評という感じのものを書くのが苦手ですので、健さんほど巧みな言葉ではありませんが、ここに挙げた作品をお読みいただいて、この現代詩フォーラムの豊かさを少しでも感じて頂ければ幸いです。

惜しむらくは、候補に挙げていた方の中に、既に退会してしまった方が数人いらっしゃったこと。現代詩フォーラムは、そういう意味では水ものです。気に入った作品は、テキスト保存しておかないとダメですね・・・


散文(批評随筆小説等) 極私的レコメンド:11人の詩人による11編の詩 Copyright 大覚アキラ 2014-01-06 14:01:28
notebook Home 戻る  過去 未来