安らかに眠れ
ただのみきや

薄紅の花びらの真中で
一匹の蚊が死んでいました
その造花の霊廟には
微かに白く埃が積もり
異なる時が流れているのです

知っていましたか
昆虫は外見が骨格なのです
死んだニンゲンが放置されると
肉は腐って無くなって
後には白骨が残ります
ところが死んだ虫が放置されると
中味は腐って無くなりますが
外見はあまり変わらないのです
だから腹部のボーダー柄も
鮮やかな黄色も
うすい飴細工の翅も
そのままの姿で残っているのです

知っていましたか
血を吸う蚊はメスだけだということを
メスは卵のために栄養が必要で
吸血鬼になるのです
女は自分の子供のために命をかけて
自分より百万倍も大きな怪物
ニンゲンの血をも狩るのです

夏にはあれほど憎らしく
イライラさせる虫けらが
何処だか美しくも思えるのです
朽ちない花の霊廟で
生前と変わらぬその姿
ひっそりと眠る吸血の母



  《安らかに眠れ:2013年12月25日》





自由詩 安らかに眠れ Copyright ただのみきや 2013-12-27 22:59:26
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