和包丁鉛焼入疑惑
あおば

                131214

ごるじたいってなぁに
ロスマン博士に聞いてみたい僕たち
生きたままのゴルジ体を観察したらどうでしょう
”ゴルジ体の袋の中からタンパク質が出でまして
その名も苦労判官”、膜の出現は不思議です
まだ分からないことも多いのですと先生
生物の授業が終わり次は板金工作の時間です
みなさん準備が出来次第工作室に移動してください
言われなくても移動する僕たちは
ふいごを動かし
真っ黒な炭をおこし待ちに待った焼き入れの準備をした
先代からの和包丁
このごろ切れ味が悪いのよとおかあさん
おとうさんは面倒くさがってなかなか研いでくれません
おまえ試しに研いでみてよと渡された
見よう見まねで研いでみたがなかなか綺麗に光りません
鈍い銀色が鉄の頑固さを伝えるようで
おまえなんかには研がせるものかと白い目を向けるんだ
鉛焼きの和包丁、もうとっくに切れる刃先が磨り減って無くなって
なまくらで横柄な地金だけが権力を振るっているのかも知れないねと
ネットで調べた俄知識を実地で実証してみたい
叩いたばかりの板金の隣に置いて火で焼いた
てめえなにをしやがるんだと
真っ赤になって怒っても飛び出す威力はありません
全体がうっすらとオレンジ色に近付いたので
そろそろ引き上げて焼きを入れてみようかな
今までよりもよく切れればよいけれど
切れなくなったらどうしよう
お父さんには苦笑いされるだけだから
いいけれどおかあさんには申し訳ないな
古典と伝統と個人との関係はすぱりと割り切れるものではありません
そう簡単に切れ味鋭くなるものかとは思うけれど
やってみる価値はありそうなのでジューとの大きな音に期待をこめる




初出「あなたにパイを投げる人たち」の即興ゴルコンダ(仮)
  http://anapai.com/tanpatsu/goru/





自由詩 和包丁鉛焼入疑惑 Copyright あおば 2013-12-14 17:46:52
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