さよならの刻
salco

にわか雨が去ると
真冬の風が通りみち
樹木も人も躰を震わす
「バーイ!」
「バァーイ!」
交差点の娘たち
無敵の若さにさざめいて
もっと綺麗な明日に生きる
ヒラヒラと手を振って
ひとり素になり歩を早め
バインダーを抱きしめて

行き先ふかすバスの横
めがねの小さな女の子
夕暮れはさよならの刻
『ばいばい』
『ばいばい』
背のランドセルはまだ軽く
暖かなすべてが家で待つのに
頬も膝も木枯らしに腫らし
ヒラヒラと手を振っている
なかよしと別離を惜しみ
明日またクラスで会えるのに
楽しかった今日に幾度も

路地の先は大きな夕陽
そのまた後ろは金のいにしえ
今日という過去も残照
「じゃねー」
「バイバーイ」
はにかんでチームメイトの母親に
歩道を持て余していた三年坊主
大通りの信号傍で別れたけれど
手を振らないんだ男の子って
なのにヒラヒラ、白いてのひら
我が子でなくても見送っている
駆けて行く子が見えなくなるまで
ヒラヒラ、ヒラヒラ、さようなら


自由詩 さよならの刻 Copyright salco 2013-12-13 23:18:19
notebook Home 戻る