うらめしや
ただのみきや

ふくよかな夜のしじま
淡く月が傾いでは
歌のような冷気が背を撫ぜます
もう気分は
お江戸の幽霊
火の玉提灯ぶら下げて
足なんざ有りゃあしませんよ
ひと気がないのは尚結構
夜道は一人に限ります
昼間の人間稼業に疲れ果て
うっかり身投げなんて洒落じゃあない
生来人は己の心を守るため
うまくバランスをとるのです
だから橋の上せせらぎに聞き入りながら
欄干にひょいと飛び乗って
誰に言う訳でもありませんが
(うらめしや~ )
もう楽しくて楽しくて仕方がなく
(うらめしや~ )
夜空に向って嗤うのです
するとどうでしょう
本物の幽霊たちも
草葉の影からひょいとやって来て
(うらめしや~ )とか
(さだめしや~ )とか
(た~まや~ )などと盛り上り
いけませんねえ
お化けのくせに生き生きしちゃって
おやおや島田の似合う粋な姉さんだこと
無い足で踏んでくるとはまいったね
今宵はゆっくり
耳元で囁きあいましょう
(ウ ラ メ シ ヤ…… )


     《うらめしや:2013年12月8日》





自由詩 うらめしや Copyright ただのみきや 2013-12-08 22:25:05
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