笹舟の行方
かんな
微熱があって
今朝はブラックのコーヒーが
舌でざらついた
飼い猫は冬になってからというもの
こたつを定位置にしている
決まった居場所というのは
誰しも安心するものだろうか
手のひらに
水道の蛇口をひねり水を貯めた
この滴のいく先はどこだろう
海ならば
わたしが還りたい
ジャングルやサバンナで
縄張り争いをする動物たちは
生きる場所を求めていのちを懸ける
にんげんだって同じだろう
パソコンを立ち上げて
音楽をセレクトする
スピーカーから流れる
少しいびつな旋律に耳を傾けた
このメロディがたどり着くところは
わたしの三半規管などでいいのか
などと心配を巡らすと
目の前の景色が微かに歪む
生きたいと願うと
こころの中に欲の居場所が
ほとんどを占め
わたしは弱く泣いてしまう
窓際に小鳥がとまり
透明な硝子をこつこつと叩いている
猫は足元でびくつき
傍らから離れようとした
恐れは本能で
居場所を失わせる
立ち向かうものもあるだろう
隣り合わせで寝息を立て
幸せそうに眠るきみの髪を撫でる
愛などわからない
そんなものはことばの上に
存在するだけだと叫んでいた頃を
未だ懐かしく想う
わかる気がする
眠ることも食べることも性欲も
はてしない
しかし愛にも果てはなく
揺るぎなく穏やかに流れていくのだ
笹舟のように
滑らかな川に身をゆだね
広大な海へと拡がっていく
そうやって
わたしときみは還るのだ