心理テスト (詩人サークル「群青」十一月の課題「非」より)
Lucy

誰かが扉を閉めてしまった
私は夜ごと出口を失くした夢をみる
扉を閉めたのは 私
そのうえ錠前を壊してしまった

壊れた錠前をまず直そうとする人は
人の心を思い遣る人
壊れた花瓶を
片付けようとする人は
過去にこだわる
塀の高さは 理想の高さ
椅子の数は 将来の家族数への願望
コップの水は
現状に対する満足度

私の椅子はたった一つで
コップは空っぽ
もちろん絶対によじ登れそうもない
絶望的に高い城壁

目を閉じてください
森の中に道があります
さあ どんな道ですか?
 曲がりくねって二股に分かれている
  (あなたが今まで歩いてきた人生を表します)
歩いて行くと動物に出会います
それは何ですか?
 ヘビです
  (あなた自身を象徴しています)
もっと進むと又動物に出会います
それはなんですか?
 マングースです
  (将来の伴侶となる人物のイメージです)
もっと歩くと家が見えます
それはどんな家ですか?
 石でできた窓が一つしかない塔です
森を抜けると どこかへ出ます
それはどこですか?
 崖っぷち

もちろん見えた家はあなたが築く
将来の家庭を表します
湖とか海とか広い所へ出た人は
未来の展望が明るくひらけている人
  (確かに崖も広いところへ開けていたのだ 果てしなく)

心理テストが流行しました
あなたの答えは特異ですねと言われると
嬉しかった
私は非凡
普通じゃない
並みじゃない 俗人じゃない 一般大衆じゃない

私は異常
たぶん平和に生きられない
この異常さが私自身であることの
唯一の根拠ではないか

それから歳月
私はこの世でぎくしゃくとけ躓き
よろめき転び痛さを憶えた
ごつごつと壁や柱に頭をぶつけ
平凡な人々の嘲笑を浴び
己の平凡を思い知る
あとはおきまりの
心入れ替え謙虚に控えめに
自我は隠して右に倣えの努力のコース

怪しい者じゃございません
鎧を脱ぎ棄て仮面を裏返す
ねっほら馬鹿も見せるし
ハッタリこけおどし使いません
腰は低く物腰は柔らかく口調はあくまで
丁寧に
分をわきまえて
言葉は十分に吟味してなるたけ常套句を選ぶ

はい、はじめに会った動物は
ネコです
次に会うのは 馬です
道は普通の幅で真っすぐ
森を抜けると野原へ出ます
小さい山小屋が見えました
塀ではなくて生垣です
私の腰ぐらいの高さです

テーブルクロスはギンガムチェック
椅子の数は四つ
コップの水はそうですね半分より少し多いくらい
花も飾ってあります
壊れた花瓶は 片付けません
錠前も直しません

そうして生き延びてきたはずの
扉の向こうに
心理テストの本当の答えが佇んでいる


自由詩 心理テスト (詩人サークル「群青」十一月の課題「非」より) Copyright Lucy 2013-11-13 21:57:55縦
notebook Home 戻る  過去 未来