R 
salco

輝く雲の湧きあがる空の果て
若者の最期は誰にも見届けられない
彼は太陽をその目に捉えて
振り返った時には姿を消していたのだ
母は名を呼び続け
長の年月探し続けたが
父は真新しい墓へ参る度に十年ずつも年を取り
三年を待たなかった

彼には意味のない女達はみな
あの逞しい腕の艶やかに整った筋肉
しなやかな指先に触れられるのを夢に見た
泳ぐような胸板の反射に目を細め
丸い下顎の先に見える形の良い鼻孔と
柔らかに澄んだ眼差しを
間近に仰ぐ憧れを抱いた

すべては何処へ行ってしまったのか
土中で蝕まれ雨水に朽ち行くとは
誰も信じることができない
そして若者の名さえ知りはしないのだ

こうして時は過ぎてゆく
春の落命は花の葬列に流れるがいい
秋に帰らぬ者は俯く家族に風を囁く
冬はすぐそこに来ている
誰もが身をこごめ
ゆるゆると歩いている
まるで辺土の敗残兵のようだ
子供達だけが声を持つ
蝶の声

夏の死こそ幸いなれ
人はもうその姿さえ憶えていない
彼が何者であったかも忘れてしまった
せめてあの息づかいを思い出そうと
鈍色の空に陽の幻を追い求めてみるが
己が足下の影にひきずられるように
わずらい疲れた足を運ぶばかりだ


自由詩 R  Copyright salco 2013-11-07 23:39:13縦
notebook Home 戻る