ひとめ あなたに
あおば

                131026



ひとめ あなたに会いたいと
地獄の底から這い上がり
やって来ました娑婆の街
変化はありませんとスタッフ
役場は綺麗になったのに
変化がないとは訳が分からない
木造の掘っ立て小屋に生まれたので
鉄骨立ての高層ビルには馴染めない
あんなもの
小型ミサイル一発で倒壊すると
分かっているはずなのに
戦争になったら
真っ先に逃げ出さないと命に関わる
地獄の底から這い出るのは
幸運のみに託されているのを知った私としても
あなたの現住所が分からない
個人情報保護法の施行以来
行方の分からない人物を捜し出すのはお金が掛かる
無一物の私にはお金がありません
身体を売って金に換え
一瞬だけでも会えれば良いかと考えたが
一瞬では物足りない
一年くらいは一緒に暮らしたいと思うので
健康を損ねるわけにも参りません
お金を払っても
探してもらえる補償もありません
その筋の強いコネがなければ
車エビの料金で
ブラックタイガーが食べられれば
まだましと思えるのですが
その業界で生き残るのも辛そうです
返金してもらえた人もいるようなので
心当たりのある人はすぐに手を打ってください
地獄には自由がない
娑婆には自由がある
どちらが暮らしやすいかというと
自由意志を押さえることに馴れていれば地獄の方が楽かも知れません
なにしろ
自分の意志での行動が全く許されていないのですから
会いたいあなたに会うなんてことも考える余地もありません
しからば私がなぜ娑婆に舞い戻れたのかというと
それは単なる偶然か
誰かの意志なのか
全く分かりません
あなたの居場所も分かりません
分かったとしても
忘れられていたり
嫌われたりしていてストーカー扱いされるかも知れません
この不明の中で行動を続けなければならないのに
変化はありませんとはとても理解できないのです
自分に直接関係ないことは知る必要もないからと
等閑視しているうちに娑婆が地獄となるのを危惧しながら書きました。
国際宇宙ステーションから眺めた台風28号の大きな渦を見ながら
気象情報は軍事機密だった時代を想起する
定型化していくのを意識するから自由詩を書くのだとも言いたそうなあなたに会えるかな




初出 「あなたにパイを投げる人たち」の即興ゴルコンダ(仮)
  http://anapai.com/tanpatsu/goru/
  タイトルは、るるりらさん




自由詩 ひとめ あなたに Copyright あおば 2013-10-26 19:39:26
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