ジェロニモ
salco

ジェロニモは古い雑居ビルの二階にいる
逆立てた金髪の根元半分が黒い
豪壮なプリンあたまの
ぶざまに鼻の長いこの青年は
いつもどんより倦み疲れた顔で
ほぼ毎日同じ電車でプラットフォームに吐き出され
カットオフにヨレヨレのソックス
ソールの反り上がったドタ靴で
私の二、三歩先を足早に行く
まるで自分の置かれた領域には何一つ
楽しい事などなかったし
これから足を運ぶ先々にも何一つ
ないかのような顔つきで

ぶ厚い革靴をだるそうに引きずる
足首はそれでも細く幼い
半分を黄金に染めた髪を彼は毎朝
ていねいに逆立てて固めるのだろう
出陣式然と
鏡に向けて顎を引き
額にしわ寄せ
自己存在の後光のごとき
この精一杯な主張を組み立てるのだろう
客の襟足にも触らせてもらえず
床の毛屑を掃き集めて回るだけの
ひとかけらの自負も持てない今ゆえに
突き刺さる悔しさ寂しさを不機嫌に隠した
誇り高き戦士ジェロニモは

ぶざまに長い鼻の上
小さな一対の目にけれど時たま
あどけないプライドと恥じらいがキラリと光る
社会という大工場のベルトコンベアーのエッジで
余人の与り知らぬその夢は
今にも破砕されてしまうかな
青くさい情熱や
生っちょろい義侠心を嗤ってへし折る鋳型の口に
幾度も幾度も呑み込まれ
分別くさいショートカットの
模範俗物が出来上がってしまうのかな
ジェロニモがんばれ
我張れ我張れ
昂然と羽根かんむり振り立てて行け
白人どもの捕虜にはなるな


自由詩 ジェロニモ Copyright salco 2013-10-17 23:36:21縦
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