不如意な恐ろしさ(アスパラガスさん讃2)
渡邉建志

アスパラガスさん讃 2


彼女は軽やかだし、あまり恐ろしそうではないではないか。という不如意。

この、デザインできない不如意で多義的なラインを、彼女は、推敲と時間によって作り上げることができたと言うのか。
そのために失ったものがあるとすればなんだったのか、そのためにあえて負けていこうとした点があるとすれば、
それは何なのか。
とがっている人は、なにかを、犠牲にしているはずだ(それが、犠牲でないように、反対に美しく見えるような形があるかもしれないが)。

恐ろしさについて、聞いてみたかった。もっと、教えてもらいたかった。教えてもらう、ことではないのかもしれないけれど、なにかを、知っていそうな人だった。





ちなみ


朝がらくたを拾うわたし
おおきな車に追われて走る
きみの声はしゃがれ
7月のとかげ
波にのまれるときも 性悪
ほかに持ち合わせがないからといって
一枚の紙をかぶせた
すぐ逃げた
はやかった

朝はいつもおそろしく
とかげはいつもおそろしく
軽やかに 声もあげずに
あちらを向いて
生き返る





わけがわからないよ、わけが わからないな
と思うけれど それを言ったら、すごく負けなような気がして
そういう、負けなような 高貴さがあるよ
勝手な、感想だけど。それは。ああ、この高貴なわけのわからなさ、
をわけの分からないと言ったら負け、感
なんで、なんでなのさ。


「一枚の紙をかぶせた
すぐ逃げた
はやかった」

このはやかった、という描写と感想の合いの子のすばやさ。
それが、さいしょの印象。
それだけのためにほかもあって、でもほかもなければいけなくて、
でもほかは主張してはならず、ただ、ある、高貴なわけの分からなさと、
過度でない音楽やリズムとして。

「朝がらくたを拾うわたし
おおきな車に追われて走る」

なんでがらくたを拾うのに追われているの。
ごみ屋さんなのかしら。

「きみの声はしゃがれ
7月のとかげ
波にのまれるときも 性悪」

その意味のないかっこいい脚韻。連想のつながり。
「波にのまれるときも 性悪」そのスペース。とても理由のない、かっこよさ、
それはとかげが性悪なの?という、主語動詞のリンクを明確にすることがどれぐらい
意味あるの

「ほかに持ち合わせがないからといって」
だれがいった
だれにいった
その、やはり、つながらなさ、
さいしょから、繋がる先を切ってある
そして読むほうが見つけてこざるを得ない
アスパラさんは誰かに「いって」、

「一枚の紙をかぶせた
すぐ逃げた
はやかった」

とかげになぜ一枚の紙をかぶせるの
怖いからなの
こわいなら持ち合わせがないからとか言う余裕あるの
あるいは「といって」は「Aではない。だからといってBではない」の代替としてのといってなのか、
そんなわけない、けど、そうでありえるのが、アスパラガスさんの、多義的なところ。

・断定しない
・否定しない

そして

・かっこつけない

メタに行こうとしない、なぜなら、そのままで、わけがわからない




「朝はいつもおそろしく
とかげはいつもおそろしく」
なぜ朝がおそろしいのかもわからない次に、とかげを紙で隠した理由が現れる。


「軽やかに 声もあげずに
あちらを向いて
生き返る」

死んでたのか。







   * 



  


散文(批評随筆小説等) 不如意な恐ろしさ(アスパラガスさん讃2) Copyright 渡邉建志 2013-10-07 02:19:06
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