それからはこぐまのサーカスばかり見て暮らした
あおば

                  130917



雨戸があったから
被害は少しだけで済みました
無かったら
瓦や小石が飛び込んできて
ガラス窓も割れて
悲惨なことになっていたはずと
夢の中でもほっとしていると
後片付けが済みせんから
さっさと御飯を召し上がれ
採れたばかりの新米ですよと
ほかほか御飯が目の前を通り過ぎる
回転するテーブルを
回転する私の家族達の目が追う
直ちに避難してくださいの声は
暗闇のなかでは遠くまでは届かない
防災無線のスピーカーが
悲鳴のように繰り返していたが
突然呼びかけを中止した
私が眠くなったので窓を閉め
それ以上聞くのを止めたのだ
二重ガラスの窓は音を遮断する
たとえすぐ外を
雨に濡れ疲れ果てた
ツキノワグマの子供連れ
後生ですから
家の中に入れてくださいな
どんなに大声で叫んでも
防災無線の不明瞭な声ほどにも
私の耳には届かないのです
そんな情けない
半分意識が遠退く寝床に中へも
並四ラジオの
臨時ニュースの緊張した声が
「環状七号線付近の神田川地下貯水池が満杯に近付きましたので
区は急遽、2ヵ所の避難所を開設しました」
これは危ない
このまま雨が続いたならば
必ず神田川が氾濫して
周辺地域が水浸しになるのは必定
そうなったらもうどうすることも出来ません
どんなに泳ぎが達者な人たちだって
闇夜の濁流の中で流されたら
どうしようもありません
天に祈るしかない我が身の至らなさをつくづくと痛感する
諦めて黙って眠る
ふかふかベットの上では
こんばんわと
夜更かし上手の
こぐまたちが騒ぎ
環境設備を整えて
解体することに意義ありと
建設費用を気に掛けない





初出 「あなたにパイを投げる人たち」の即興ゴルコンダ(仮)
  http://anapai.com/tanpatsu/goru/
  タイトルは、ナナ・クマスキーさん。
  2カ所に”たち”を加えました。


自由詩 それからはこぐまのサーカスばかり見て暮らした Copyright あおば 2013-09-17 21:51:33
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