父を見舞う
Lucy
無表情な父に声をかけると
その霧深い意識のずっと奥の
宇宙のかなたから
帰ってくるのかと思うほど
遠いところから
ゆっくり
微笑みが皮膚の上に戻ってくるのが
見える
「おとうさん」というと
長い眠りから今覚めたように
父の眼に光が宿し
わたしをみつめて
「おう」 という
「気分はどう?」
ときくと しばらく間をおいてから
必ず
「気分か・・ 気分は 最高にいいぞ」
杖をついて歩けていた頃のように
まだ 口からご飯を食べる事が出来た頃のように
ソファに腰掛け、テレビの政治討論を尻目に
自信満々で自説を私に語って聞かせた父のように
いたずらっぽく輝く目をして
「おとうさん、じゃあね またくるから」
と手を振ると
時間をかけて少しだけ
右手を持ち上げ
握ったままの手を
ほんのわずか
ゆらゆらさせる