誕生賛歌
HAL
きみはなぜ生まれたときに
あれほど大きな泣き声を挙げたのだろうか
この厳しくやさしくない世界を
きみはすでに知っていたからだろうか
それとも笑うことは難しいから
その代わりとして泣き声を挙げたのだろうか
だれもが生まれてきた新しい命を
喜ぶのに 嬉しさを憶えるのに
それをまだきみは知らなかったからだろうか
でもきみもいつか知るんだ
生まれたことにこそ意味があるんだと
生まれたことにこそ価値があるんだと
きみが初めて憶えた言葉は『イタい』だった
きみが初めて立っちしたのは病室の中だった
きみが初めてヨチヨチと歩いたのは病院の廊下だった
そんなきみにお説教では決してないけれど
父さんが多くの失敗から少ない成功から学んだのは
命さえあれば この世の中もなかなか捨てたもんじゃないということだ
だからぼくは司馬遼太郎氏が“風塵抄”に残された
“新とは生命そのもののことである”との半句を借りて
きみに新(あらた)という名を授けたんだ