告白と言い訳
ただのみきや

詩人の方々
告白します
手元にある数十冊の詩集
八割以上は古本屋で買いました
おまけにほとんど百円コーナー
いくつかの本には裏表紙に
詩人のサインと送った相手の名前
生々しく痕跡本です
詩人の方々
ごめんなさい
自分も詩を書く者なのに
みなさんのいのちの証を
百円で買っているのです
稼ぎが悪いのが理由です
家族の手前もあるのです


詩人の方々
告白します
否 言い訳かもしれませんが
詩は数奇な運命を持つものです
先日わたしはブックオフで
一冊の詩集を買いました
ハードカバーでケース付
汚れもないけど百円でした
詩人の名前は「長井菊夫」
詩集の題名は「天・地・人」
驚いたことにこの方は
わたしと同じ市の出身でした
もっともこの方は大正十五年生まれ
全く知らない方でした


裏表紙には本人のサインと朱の落款
同じ筆跡で「○○様へ」
しばらく書棚に寝かせていましたが
読み終えた中也の代わりに鞄へ入れ
仕事の合間に読み始めました
詩は解き放たれ
四季が巡り始めます
それは真空パックの新鮮さ
全く時代を感じさせません
雪どけの小川のように流れてくるのです
古さを感じさせない小説もあるでしょう
しかし書き手の飾らない心の震え
日常の感動や心象があたかも
そこに在るかのように伝わってくるのは
それが詩であるからでしょう


こんな不思議な出会いが
これまでもたくさんありました
知らなかった詩人の初めて見る詩集
ページを開くと
直ぐに時空を超えて親しい友のように
わたしが詩を読み詩を書こうとするのには
こんな偶然の出会いが強く影響しています
今はデジタル化された時代です
紙に書かれたものだけが詩ではないでしょう
でもわたしは紙に書かれた詩が好きです
本になった詩が好きです


詩集を出版された方々
ご存知のように詩集はそんなに売れません
一部の人が(恐らく詩人が)読むのです
書棚から書棚へと旅をして
古本屋に並ぶこともあるでしょう
しかし詩には数奇な運命があって
必ず読者と出会うのです
当の本人は知らなくても
歳月を経た後であっても
詩という不思議を通して
読者は詩人の心に触れるのです


詩人の方々
一冊の詩集を世に送り出すことは偉業です
歯の浮くお世辞ととらないで頂きたい
詩集は旅をします
わたしの書棚は
そんな旅人の旅路の果て
長期滞在型の一軒の安宿なのです
そういう訳ですから どうか
大目に見てやってください












自由詩 告白と言い訳 Copyright ただのみきや 2013-08-11 17:12:28
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