虹のすべて
大覚アキラ

ひとは
母音だけで会話するときに
かならずしも
自分に正直だとはかぎらない
相手に誠実だともかぎらない

水色のキャンディが
口の中で溶けていく速さで
きみはやがて
いろいろなことを
約束された手続きのように忘れていくだろう

射抜かれる明け方
黒い文字の果てしない羅列に
息をのむアンドロメダ
きのう羊を殺した野蛮な道具で
明日は畑を耕して種を蒔く

太陽に手をかざし
まぶしそうに目を細めながら
手を振る遠い人影
きみはしずかに
祈りの言葉をつぶやくだろう

母音は光に似ている
光は液体に似ている
液体は時間に似ている
すべては流れていくという一点において
共通のものであると断言する

鎖骨の窪みにたまった汗が
森の奥の誰も知らない泉みたいで
人肌のぬくもりを思い出させる
きみはそこに
水色のキャンディを投げ込むだろう

波紋が広がって響きあう同心円の
うすぐらい明け方に
死んだ道路の上で宇宙が近づく
脱ぎ捨てて裸になって
さあ母音だけで会話しよう


自由詩 虹のすべて Copyright 大覚アキラ 2013-08-05 12:56:35縦
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