遠い声遠い部屋
梅昆布茶

不幸な少年はバスに乗る 何処へも着かないバスに 最果ての街に行きたかった
月の無い夜に生まれた いつも夜を宿している 言葉を持たない

銀河の端っこから滑り落ちてきた魂だもの 空を見上げる
この世にとってはお荷物な存在だ くるりんと回転して落ちてきた

夕暮れの気配に世界を見渡す 何処へも行かないバスに乗って
何処へ行こうと言うのか バスは夜の高速道路をひた走る 少年は口笛を吹く

まったく行き先の違うバスの窓から 君が手を振るのが見えたんだ だから
僕はこの世界をあきらめて 次の扉を探し始める ねえ素敵なことだろう

不幸な少年はバスに乗る いつまでもターミナルに着かないバスに 良い旅だ
銀色の尖がった月は 少年の柔らかなこころを刺す 旅はいまもつづく 痛みの果てまで

存在理由ギリギリまで生きてゆくんだもの 野の花が微笑んでいるさ 春の宵だ
弦の切れたギターをいつも抱えていた まるで赤児をだくように そして歌う

子守唄のように 或いは手の届かない初恋のように まるで夢のように
旅立つ日はいつも雨 もう少年ではいられないが それでも言葉を探しにゆく

粉々になった夢を つなぎ合わせて たった一人で 遠い旅路をぶらぶらと
少年のままに 幼いままに ぶらぶらとね





自由詩 遠い声遠い部屋 Copyright 梅昆布茶 2013-07-02 01:04:17
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