花まんま
そらの珊瑚

おそらくは
やわらかな春の香り
おそらくは
かぐわしい早乙女のような
おそらくは
この世に用意された
おびただしい
喜びと悲しみのあわいで
おそらくは
それは
幻の香り

さくらは香りをもたないと
現実を
知ってしまっても
あれがまやかしの類だとは到底思えない

記憶の淵につかまりながら
爪先立って覗き込む
そっと顔を寄せれば
ゆらめいて
くゆり
薫る
確かに在る
おそらくは
わたしの
知っている香り
縁の欠けた
ままごと茶碗一杯に盛られた
ひとまとまりになった
うすももいろのはなびらが
匂う
無邪気な素手でつかめば
しなやかに
快活に
空気をまとった
そのひとひら、ふたひらが
馴染んだ茣蓙ござの上に
あふれこぼれ 戯れて 
やがて風をつかまえて離れていく

気がつけば夕暮れて
もうだあれもいなかった

おそらくは今日
誠実な枕になって
わたしをねむらせる

おそらくは明日
尊い糧になって
わたしをたべさせる






自由詩 花まんま Copyright そらの珊瑚 2013-06-04 08:51:52縦
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