再世記
salco

子に差しのべた腕からは
女の斬られた両腕からは
水が滴った
血でなく間断なく水が
滴り落ちた

空に差しのべた腕からは
男の斬られた両腕からは
樹が生えた
蛆でなく際限なく枝葉が
伸びに伸び繁った

おゝ、わたくしが斬った女は
母でありましたか
長は走り寄るとその腕の滴を
両の掌で享け皆に掲げた
砂漠の民よ、砂漠の民よ
お前達はもはや渇える事がない

そしてここに斃れた男
わたくしと斬り結んだ男は
父であったのだ
見よ、空は緑蔭にさえぎられ
砂漠の民よ、砂漠の民よ
我らはもはや灼かれる事はない


こうして
腐れた母体は土壌となり
滾々と水を湧きいだし
こうして
干乾びた父祖は国となり
子らに家を造らせた

息子らが種を蒔けば
土の母から父の苗が萌え育ち
娘らが髪を梳けば
幾丈もの生糸となり被服となる

子の子らは
母を細分化して庭とよび
父を増築して盤石となし
境界と利権を巡って相争った
子の子の子らは今日も争い
和合を祈念しながら
未来永劫争い続ける


自由詩 再世記 Copyright salco 2013-05-26 23:12:48縦
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