妖怪辞典(抄)
salco

[妖怪(尻)べった]
  肥大臀部を横向きにした姿の妖怪。
  戸建の階段のカーブや集合住宅の脱衣所などに潜んでいる。
  これを見ると妻に萎えてしまうようになる。

[妖怪ココゾ]
  交通機関の混乱時、さしたる予定もないくせ駅員に食ってかかる妖怪。
  振替輸送に応じず、とっとと踵を返してタクシーを探す代わり、機に
  乗じてかりそめの優位に陶酔している。

[妖怪いもけんぴ]
  自己顕示欲が強く見栄張りな妖怪。
  自らの洗練度を頑なに信奉しており、放屁(歌唱披露)を甲斐として
  いるが、楽才皆無の上に音痴。
  出没地はストリート、公園など。

[妖怪どどべら]
  己が便槽の欠点や美点を委細言い立ててやまぬ木製の妖怪。
  非常な悪臭だが、常時湿っているので火に投じても燃えず、燻される
  と一層臭い。

[妖怪ちちごショート]
  ドルチェ・ヴィータを逸した妖怪。
  開いて黒ずんだ毛穴を種に見立てた鼻の頭を赤く塗り、洋菓子店のい
  ちごショートに紛れ込む。
  食した者はそこはかとない愁訴または胸やけで胸が塞がる。

[妖怪お皮嘘]
  自分はもうじき滅亡すると喧伝し、何百年も涙に掻き暮れている妖怪。
  カビた餅を崇拝しており、投げ与えると押し戴いていったんは引っ込
  む。

[妖怪煤け野]
  酒精の力を借りて色香と阿諛で男という単細胞生物から金品を巻き上
  げる女が妖怪化したもの。
  価値観の軋轢が回らぬ内に酩酊を注ぐ話術に長け、中年男のノスタル
  ジーに乗じ「ママ」を擬態する。
  出没地により「中酢」「蚊舞伎調」「禁止調」など別名あり。

[妖怪陰門舌いんもんぜつ]
  俗物の口腔に棲むカンジタ菌様の妖怪。
  親切心にオーガズムがあり、専ら自らを感じさせる為に口うるさい。
  そこに自慰を瞥見した相手に疎まれるか、淫猥の感作で一層ダメな人
  間にしてしまう。

[妖怪ホフホフ]
  人間関係には「未知」「既知」「知己」があり、その各々に内包され
  る関係性にも自ずと優先順位が生じると知りながら、自分こそは相手
  にとって知遇・交際の価値があるのだとする妖怪。
  俗に「イタイ」と形容される人物の思考回路に棲息する。


自由詩 妖怪辞典(抄) Copyright salco 2013-05-22 23:47:41縦
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