幻想の住人
まーつん
I
君は幻想の住人
窓の外に映る
灰色の景色の向こうに
白いバラの咲き乱れる
見渡すばかりの平原を見る
鋼鉄の爪が
肌に残した傷跡
それは
現実を生き延びる為の
突き刺さる教訓となって
耳をふさぐ君のうなじに
静かに 執拗に 囁き続けていた
II
海に漂う原生動物から
陸に立ち上がる現生人類へと
進化の背中を押してきたのは
食うか食われるかの
命のやり取りと
血を分けた子供への
折れることのない
慈愛の柱
他者への不信と
家族への偏愛が
生き延びる為の身体を
優れたものへと造り替え
強者への地歩を
固めていったのだった
進化の果てにたどり着いた
人間という形の生命は
だか今
皮肉なことに
その優れた
生存本能ゆえに
自滅しかけている
白アリよろしく
早い者勝ちに
資源を食い荒らし
弱者を蔑み
踏みつける文化を
何千年にもわたって
営んできた
III
そんな社会に
窒息しかけていた
僕を救ってくれたのが
君の描き出す
幻想の世界
僕は緑の蔦が絡みつく
白い東屋の柱にすがりつき
新鮮な空気を吸い込む
それは自由と
可能性の味がした
だがこれは
真実なのか
それとも
うたかたの泡と消える
空しい慰めに過ぎないのか
獣の爪に守られた
君の指先が描き出す
砂の上の天上画
打ち寄せる波に
さらわれる前に
潮汐を操る
月の前に跪ずき
海を静めてもらわなければ
美しさは儚く
時の流れは容赦ない
君が忘却に囚われて
幻想への入り口を
閉ざしてしまう前に
僕は扉を永遠に
開け放つ鍵を
君の世界に捜しに行く
だって
それこそが真実で
窓の向こうの現世の方が
幻に過ぎないのかも
しれないのだから
白い衣を身に纏い
風を相手に踊る君よ
両腕を翼のように広げて
全ての喜びを受け入れる
まるで
陽ざしとなって
降り注ぐ
無条件の
愛のように