「明日」ほか二篇
乱太郎

 「明日」

ATMから引き出そうとしたら
お客様の明日は残高不足です とアナウンス
借金ばかりの恋で底を着いたのか
利子もあの子ももう赤字になって去っていく
振り返るのは嫌いだが
このままいても
後ろからおばさん早くせんかと睨んでいる気がして
小銭入れから十円玉取り出して
明日天気になえれと ぽうんと放り投げた
表か裏もないけれど明日ひっくり返して歩いてみようかな






 「コカ・コーラ・ミレニアム」

ペットボトルの蓋を開けると
世界は泡立つ海となった
あちこちで破裂する文語体
漆黒にべた付く
神は慌てて女神を送り出すが
姿を視ることは叶わず
触れることもあり得ずに
ただ耳元でささやかれる憩いにまどろむ
僕は悲しくなって一気に飲み干した
そして喉仏から孤独の鐘が聞こえてくる






 「無洗米だからって」

いくら無洗米だからって
炊飯器の中まで水いらずって
笑ってからかって茶化してみようかな
僕たち水いらずの仲だしね
そういえばさ
いつの間に
そんな仲になったのだろうね
火星に降り立つ最初の人類になったら
もう一度炊飯器取り出して
ここは赤い星だし赤飯炊いて
水はもともと無いのだから
水くさいこともなかろうにって
お祝いしようかね
悪ふざけで言ったけど
水無して炊いたご飯見たかったな
やっちまったねって笑う君が見たかったな




自由詩 「明日」ほか二篇 Copyright 乱太郎 2013-05-07 14:32:29縦
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