せきをしてもひとり?
そらの とこ

「風邪をひいたな」
そう感じたのは、くしゃみに加えて咳が止まらなくなった2日目のことだった。
?止まらない?と聞いてどの程度を想像するのが一般的だろうか。
とにもかくにも止まらないのである。
コンコンコンコン――
ほんの少し治まったかと思えばまたコンコン。
コンコンコンコン……、
キツネだってこんなに鳴かない。
カウントしてもキリがない程に咳が止まらないのである。
まずいな……。
今さらかとは思うが、とりあえずうがいをしてみる。
が、しかし!口に含んだ水は無惨にも咳とともに四方八方に飛び散っていってしまった。

コンコン、ダメだ。

そうだ、風邪薬を飲もう。
思い立って常備薬を確認すると、あったのはララA錠。
パッケージには〜風邪の諸症状に〜とだけある。
案外ザックリしたものだな。
止まらない風邪には効くのだろうか?
一抹の不安を抱えながらも、水とともに薬をふくm
ブァッハー。
やはりである。やはり、口にふくんだ水と薬は散り散りに飛んでいってしまった。
orz

コンコンコンコン。

こうなると摂るべき栄養も摂れない。
食物が喉を通らないのだ。
――ためしにりんごをかじってみたものの、かじるまではよしとして飲み込むことは無理なのであった――

コンコンとしかものが言えない。
困ったものだな。
病院に行ったところで、自らの症状を口にできないじゃないか。
筆談をしてみる?
考えてはみるが至極面倒くさそうである。
病院も諦めるか。

ハァーと溜め息を吐こうとしたら案の定咳が出た。

しばらくすると、ゲホゲホという咳に変わってきた。
それでもずっと止まらない。
段々と喉が痛み出してくる。
喉の奥で血の味がするような不快感。
どうしたものだろう。

よし!横になるか。

冷たい万年床に体を横たえる。
ああー、こんな時に恋人か愛人でもいたらなぁー。
ゲホゲホ。
咳をしながら少しうとうととしてきた。
眠れるならそれが一番だ……。

あっ、そういえば――
その時、何を思いついたかは覚えていない――
むくり。
とっさに起き上がった。
と、その時。

ヴェッボッゴッボッ (; Д )

とてつもなく恐ろしい音がした。
自分の咳だと気が付くのにしばらくの猶予が必要だった。
まるで地獄の番人が3〜4人まとめてゲップとしゃっくりとおならをして、それと同時に煮えたぎった鉄釜の血が大きなあぶくを立てたような音―それも天高く鳴り響いた。
もうどうにも表現ができない、恐ろしい音だった。

プカァー。
あ、今出たな、これ、出たな。
そう感じたときにはもう出ていた。
体からたましいが出ていた。

入れ物からでてしまった。
もうふわふわと浮かんで定まらない。

ああ、こんな顔をしていたっけ?
そこに見える体。
みすぼらしいな。

などと自分の観察をしていた、
余裕が多少あったのに、

次の瞬間には、

もう、

何にもなくなって、

このお話も、

おしまいである。



―完―


散文(批評随筆小説等) せきをしてもひとり? Copyright そらの とこ 2013-04-16 22:55:51
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