丘のうえのちいさな雲
梅昆布茶

僕たちは丘のうえのちいさな雲を思いだす
比企丘陵のなだらかな起伏のうえにそれはほっこり呼吸していた

風が窓辺を訪れて遥かな便りを伝えてゆくのだよ

荒川を挟んで大宮台地と対峙するかのように遥か秩父高原あたりまでせり上がってゆく台地

ときに渓谷や森林や或いは川越藩の御用米を生むひろびろと光を反射してつづく田圃には

いのちが漲っているだろう


あの窓からは遠く雪を戴いた谷川連峰や日光の連山

そして筑波の峯さえも望めたものだ


妻と別れ家も人手に渡った

もうあの雲を思いだすこともあまりなくなったが

あの窓を広い空につながった光の通路をときどきは思うのだ


既に成人してしまった子供達と

シェルティのクッキーや雑種のシロ

飲兵衛の僕とめっぽう気の強い妻と

なんだかほんわか暮らしていたものだ


ときどきはもう一度あの小さな窓を開け放って

野の花の匂いのする空気を胸いっぱい吸ってみたいなんて

思うこともあるんだ







自由詩 丘のうえのちいさな雲 Copyright 梅昆布茶 2013-04-16 12:40:50
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