《冬の星座》にあのひとをさがす
石川敬大




 こがらししとだえてさゆる空より
 地上にふりしくくすしきひかりよ



 埠頭の水たまりに
 月がこごえはじめている
 真夜中には
 かげもまた針のようにゆっくりと動いてゆく

 すてられた犬の子がいっぴき
 きょう一日
 ありつけなかった食べものをもとめて
 魚くさい路地をはいかいしている


 
 ものみないこえるしじまのなかに
 きらめきゆれつつ星座はめぐる



 電柱はおろか
 家も屋根もねむる漁師まちに
 ひとの声はない
 まるでべつの世界にきたように犬の子はひとりだ

 月あかりがたえ
 いっそう鬱蒼としてくる雑木林に
 どうやら
 雪がふりはじめたらしい


      *


 
 ほのぼのあかりてながるる銀河
 オリオンまいたちスバルはさざめく



 めぐりめぐる
 天球のどこかにあのひとはいる
 みえなくても感じられる こころの
 仰角の空のどこかに

 そのことにおもい至ったなら
 ひとはもっともっとやさしくなれるはずなのに
 世界のどこかで
 血がながれない日はない


 
 むきゅうをゆびさす北斗の針と
 きらめきゆれつつ星座はめぐる



 むきゅうという永遠を指さす北斗七星の
 空にも
 地上のどこにも
 どんな悪意もないはずなのに

 殉教した聖職者たちがそうだったように
 さゆるこころで
 空のどこかの 波に浚われた
 あのひとをさがす



     引用は、堀内敬三訳詩の《冬の星座》一番と二番




自由詩 《冬の星座》にあのひとをさがす Copyright 石川敬大 2013-03-01 12:19:12
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