《冬の星座》にあのひとをさがす
石川敬大
こがらししとだえてさゆる空より
地上にふりしくくすしきひかりよ
埠頭の水たまりに
月がこごえはじめている
真夜中には
かげもまた針のようにゆっくりと動いてゆく
すてられた犬の子がいっぴき
きょう一日
ありつけなかった食べものをもとめて
魚くさい路地をはいかいしている
ものみないこえるしじまのなかに
きらめきゆれつつ星座はめぐる
電柱はおろか
家も屋根もねむる漁師まちに
ひとの声はない
まるでべつの世界にきたように犬の子はひとりだ
月あかりがたえ
いっそう鬱蒼としてくる雑木林に
どうやら
雪がふりはじめたらしい
*
ほのぼのあかりてながるる銀河
オリオンまいたちスバルはさざめく
めぐりめぐる
天球のどこかにあのひとはいる
みえなくても感じられる こころの
仰角の空のどこかに
そのことにおもい至ったなら
ひとはもっともっとやさしくなれるはずなのに
世界のどこかで
血がながれない日はない
むきゅうをゆびさす北斗の針と
きらめきゆれつつ星座はめぐる
むきゅうという永遠を指さす北斗七星の
空にも
地上のどこにも
どんな悪意もないはずなのに
殉教した聖職者たちがそうだったように
さゆるこころで
空のどこかの 波に浚われた
あのひとをさがす
引用は、堀内敬三訳詩の《冬の星座》一番と二番