砂をんな
salco

むかしむかしある所に
哀れなおんながありました
たいへん貧しく生まれたので
おんなは
人に何かをもらうことしか
考えませんでした
自分は哀れな身の上なので
情けをかけてもらうという心得で
だれかに与えたり扶けたりする事は
絶えてありませんでした

そうしておんなは
おのずと悲しみ泣くのでした
人を求める心をもて余しては泣き
人に求められぬ身を嘆いては泣き
近しい者が死んでさえ
自分が寂しいばかりに泣くのでした
こういうおんなでしたから
人に想いを寄せるのは
腹を膨らませる為でしかなく
何かに応えているつもりでも
それは身の裡にしまい込んだ
もらいものの反映に過ぎませんでした

こうしておんなは情けを乞い
もらった心映えを食べてぶくぶくと肥え
口を開くと腹に貯め込んだ水が
たぷん、たぷんと揺れるような
恩恵の音を立てるのでした
それは大そう心地のよい音色でしたが
人懐こいおんながしなだれかかるばかりで
何一つしようとせぬのがわかると
だれもかれもが離れて行きました

何て冷たい人なのかしら
どうしてああも薄情になれるのだろう
そうだ
優しさのない人達からは離れていよう
ああ、寂しい
悲しい
つらい

おんなが泣くといつしか
目から砂が流れるようになりました
砂はさらさらと頬を伝い
さらさらと胸をすべり
さらさらと足下へ落ち
消えもせず溜って行きます
おんなはそれにも気づかず
寂しい
悲しい
つらい
と泣くばかり
出歩くこともありませんでしたから
一年後には
頭まで埋もれていました

百年が経ち
そこは小さな砂丘です
おんなはすっかり深く埋もれ
寂しい
悲しい
つらい
と泣くのです
汲めども尽きぬ砂泪が頂きを押し上げ
おんなをいっそう沈めて行きます
そんな砂丘を歩くと
靴底がこすれてぎうぎうと音を立て
砂粒がくるぶしまで行人を沈め
靴の中にも入り込み
かかとを掴んで歩みを遅らせ
後ろへ後ろへと引くようです
それはまるで
行かないで
ねえここにいて
ここに来て
と言っているようです


自由詩 砂をんな Copyright salco 2013-02-26 23:33:27
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