そらの珊瑚

人なかで咳が出ると
はやく止まれとあせる
半径3メートルにいる人たちから
無言で疎まれていると感じて
目的地のことなどどうでもよくなり
消え去りたくなる

独りで居るとき咳が出ると
ほっとする
誰にも気兼ねなく
憐れまれることなく
咳をまきちらかす
この躰の中にある
要らないものを
咳という激しい動力によって
外へ押し出している
強制執行
一方通行
無償交換
連続関数
そして
からっぽになったあかつきに
美しい空洞になっていくことを
夢想してみたりする
人生にはそんな気休めが必要

誰もいない半径3メートルの空気が薄くなっていく
咳はわたしに息を吸うことを許さない

そこはどんな目的地だったのか
嵐になれば
あっけなく川に流されるみどりの中洲だろうか
揺れる吊り橋でしか
行くこと叶わぬあおい島なのか
それとも
点滅を繰り返すあかい灯台もしくは避難港か

咳が終わるとき
脱力したぽんこつになり
涙が出ていることに
ようやく気付く
それらは乾いたあと
しろい道になった

たどってゆきなさい
どこかに
つながっているはずだから
 




自由詩Copyright そらの珊瑚 2013-02-26 08:47:44縦
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