看取り(3)
吉岡ペペロ
息子が帰り支度をするのを見つめながら先生からきょうの息子の様子を聞いていた。
お礼を言って先生にぼくは微笑み保育園を出た。
ぼくは笑顔をよくほめられる。あるとき仲間に黒人であることの利点を指摘された。
黒い大きな眼と肌と白い歯のコントラストには華があるのだそうだ。
息子のやわらかい手を包んでふたりで家路をたどる。
ぼくは自分を動かしているのはなにかと考えた。
息子?使えないやつと思われたくないというプライド?
祖国のこと?それはふたをしたままだ。
妻はどうしているのだろう。
思考のながれで妻のことを思い出した。
妻は日本人だった。
妻は息子の保育園が決まると突然姿を消した。
妻の家族のことをぼくは知らなかった。ぼくを見せたくなかったのかも知れない。
ぼく自身もそうだったからそれは仕方のないことだと思っていた。
ふるさとの家族たちはぼくが日本の病院で働いていると喜んでいた。でも老人ホームは病院ではない。息子がいることも知らない。
ぼくは一仕事終えてからのふたりの家路が大好きだった。
それが週三回看取りをするようになって保育園からの息子との家路がおなじ数だけ減ってしまった。
看取りをするようになってから変わったことがもうひとつあった。
考えごとをするのが増えたような気がするのだった。
自分を動かしているのはなんなのだろう。
郵便ポストが外灯に照らされていた。
お父さん、あしたはミトリの日だね、
息子がぼくの指をいっぽんにぎって揺らした。
だから、あした、公園に連れてってよ、
ぼくのゆびを揺らすときは彼の普段の我慢を口にするときだ。