雪だよ
はるな


猫が転ぶとき
そこには道路と猫とわたしがあって
あたかもおのおの一番遠いもの同士のよう

二月にふる雪はぴらぴらとして細かく
手のひらにのせるまもなくとけ消えてしまう
ひとひらひとひら
のせるまもなくとけ消えてしまう

スーパーマーケットの看板の文字はいつも一文字だけ消えていて
それはさびしさよりも滑稽さよりも
なんだかみょうな力づよさをわたしに見せている

駅前にひとつだけある公衆電話は
いつでも場ちがいに緑色で
そのうしろの街路樹たちからこっくりと浮き上がっている
それが使命みたいに
まるでさだめみたいに

猫たちはのら猫で
たいていいつも飢えている
そうはいっても猫らしくかるい足どりでいつも
道路をまっすぐに横切っていくが
なにかの間違いみたいに
たまに轢かれて死んでいるのもいる

犬たちはちがう
犬たちは道路で死んだままになったりはしない
犬たちは力強く従順で
おかしな洋服を着せられたりしても尻尾をふっている
それなのに
猫と犬は出会いがしら
なつかしそうな眼の色をそろえてみせる

道路には
吸い殻 軍手 表紙のちぎれた青年誌 枯葉
わたしがそこに横たわって
それらのものもののなかへ馴染めたらどんなにかいいだろう
わたしはそこに横たわって・・・

男の子たちは
みんなわたしを忘れて
熱いお酒を飲みながら
雪だよ、などと笑って
明日の準備をしているだろう

女の子たちは
みんなわたしを忘れて
つめたい首飾りをはずしながら
雪だよ、などと笑って
明日の準備をしているだろう

道路には きょうは
猫は死んでいない
わたしはほっとして
わたしと
道路が
違うものだということを
はじめからゆっくりと考えはじめる
道路と猫が
違うものだということを
わたしと猫たちが
べつべつのものだということを



自由詩 雪だよ Copyright はるな 2013-02-24 18:32:51
notebook Home 戻る