明くる日の丘
山中 烏流




風に騒ぎ立てる木の葉の影を踏んで、はしゃぎまわる
子供たちを見ていた

庭先で香る金木犀を指して
あなたは今日も
幸せそうに、笑う





恥ずかしいものばかりを選び取って
名前を付けては
過ぎ去っていく/遠くなる
日々、

思い思いを口走った彼らが
瞬く間に消えていってしまうのを
わたしたちは
いつも、いつまでも、いつになっても
カーテン越しに見送った


耳鳴りのように
それ
は、すぐ近いところで
わたしの名前を呼んでいる



残像のように
あなたの手を引いて、丘を下るわたしの影と
綺麗な花が揺れていた

たくさんの忘れられなかったものたちが
付きまとい続けるから
わたしたちは
どこまでも、丘を下っていった





 歌を歌うように

 息をするように

 言葉をなぞるように

 手を触れるように


安物の、ありふれた言葉使いで
何よりも愛したかったものが
あなたでも、わたしでもなかったとしたら
どれだけ幸せだったのだろう

 思いをしたためるように

 パンを口に運ぶように

 空を見上げるように

 あなたの名前を呼ぶように






薄く窓を開けて
空を行く鯨の群れに手を振った

ちりばめられた光源すら寝静まった夜に
あなたは
そっと、目を閉じる













自由詩 明くる日の丘 Copyright 山中 烏流 2013-02-05 03:13:47
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