赤いポストと遠い夜
千月 話子

昔住んでいた家の近所の円柱形のポストから
私に 手紙を出したいんです




近くには小さな神社 小さなトカゲが住んでます
土を掘って数センチ グレーの粘土質の柔らかい土が現れて
ころころころと 団子を作って遊びます
こま犬が2匹 静かに遠くを見ています


その側に 懐かしい火の見やぐら
一度も鐘を鳴らすこと無く 平和な日々
4階建て位の高さから 見下ろす景色は
ハッカ飴のように 爽やかな風が吹く
川の水面と桜の木を 揺らしているのだと
見上げる目が 羨ましそうに想像したりしています


高い煙突が空まで届きそうな 銭湯の下駄箱は
いつも 真ん中辺りを選びます
 体重計に乗ってから鏡の前でポーズを取る少女
 湯船にはつま先からゆっくり入っていかないと
 びっくりして だるま落とし
冷やされたビン入りコーヒー牛乳が飲みたかったんです


小さな小さな本屋さんは 50円〜100円で借りられる
ビニールのブックカバーに包まれて
小さなおばあさんが 小さなノートに
顔見知りの子供の名前と まんがの題名と
計150円の文字を くしゃくしゃっと書いています




赤い円柱形のポストに入れた 手紙の文字から
くるん と角が取れていく一日の終わり

聖夜に集められて 尖った気持ちが空に登って行ったので
まばたきした細い隙間から 切手を貼り忘れた遠い景色が
きらきら と 時折戻ってきたりするのです
 


自由詩 赤いポストと遠い夜 Copyright 千月 話子 2004-12-22 23:12:59
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