あずきの恋人 (連載⑪)
たま

 東の空にいつの間にか、オレンジ色した淡い月がでていた。

「あ……、もう、こんな時間だから、お家に帰りましょうか。」
 やだっ、そんなの、ずるい!
「外山先生……、わたしどうしても、もういちど会いたいの。このまま会えなくなったら、わたしも、くるしくてたまらなくなっちゃう……。わたし、まだこどもだけど、もうすこし、おとなになって、もういちど、外山先生に会いたい……。ねぇ、だめですか……。」
 そんなこと、夢かもしれない。でも、いまここで、わたしの気持ちを外山先生に伝えなければ、ほんとうに会えなくなってしまうような気がした。
「あずきさん、またいつか……、ぼくに会えるかもしれないよ。」
「え、ほんとうに……、いつ?」
「うーん、それは、ぼくにもわからないけど、そんなにとおくない……、未来に。」
 みらい……?
 じゃあ、わたしはもう、おとなになっているの……?
「うん、そうだね……。きっと、すてきなおとなになっていると思う。だから、ぼくも、もういちど、あずきさんに会いたいなって……、うそじゃないよ。」
 うん。うれしい……。
「さぁ、あずきさんちまでぼくが送るから、ね、帰りましょう。」
 う、うん……。
 未来って、どれぐらいとおいのだろうか。わたしはまだ十一歳、いくつになったら、おとなになれるのだろうか。あ、でも……、外山先生はどうやって、人間にもどるつもり?
「ねぇ、外山先生は、ほんとうに人間にもどれるの?」
「うん、生きていればね、かならず、未来はやってくるんだ。そしてね、きっと、いいことがあるんだよ。」
 きっと……、なの?
 だったら、わたしは未来を信じようと思った。いつか、きっと、外山先生に会えるなら……。
  帰り道は、外山先生と仲良くならんであるいた。オレンジ色の月がとてもあかるくて、わたしのからだがすこし、かるくなった気がする。
  
 猫って、お月さまが好きなんだろうか。

 リビングの庇から、わたしの部屋の窓にジャンプして、ようやく家に帰りついた。
 外山先生が玄関のガレージから、心配そうに見あげていてくれた。わたしがしっぽをふると、外山先生もしっぽをふって、
「じゃあね……。」って。
 ちょっと、さみしかったけれど、わたしはもうすっかり疲れきっていた。ちいさな灯りのついた部屋に入ると、ベッドのうえにまるくなって、眠ってしまったの。
 
 窓の外があかるくて、もうすっかり、日はたかく昇っているみたい。わたしはベッドのうえで、ぼんやり目がさめた。
 しばらく、天井をみつめていたら、ゆうべの出来事がすこしずつ、よみがえってきた。
 夢だったかもしれない……。
 そう思ったけれど、でも、そんなことない。たしかに、わたしは猫になって、外山先生と会うことができた。そして、もういちど、人間にもどってほしいと伝えたはず。
 あ、いけない、起きなくっちゃあ。
 うっ……。
 なんだか、手や足の筋肉が痛くてたまらなかった。いつか、学校で跳び箱したときみたいに……。
 あれっ、わたし、パジャマを着てる? あ、もう人間にもどったんだ……。

 重いからだを手すりにあずけて階段をおりた。
「あらっ、あずき、だいじょうぶ?」
 おかあさんはリビングの床に掃除機をあてていた。
「うん、だいじょうぶよ。ちょっと、足が痛いの……。」
「足? どうして……。」
「ん……、わかんない。」
 もう、十時をすぎていた。
「ねぇ、あずき。おとうさんね、きょうから三日ほど出張だから、晩ごはんはカレーにするわね。また、手伝ってくれる?」
 うん……。そうだった……、おとうさん出張なんだ。
 おとうさんはあまりカレーが好きじゃなかったから、出張の日はカレーをたくさんつくって、あくる日はカレーうどんになった。わたしは玉ねぎを刻んだり、じゃがいもの皮をむいたりするのが好きだったから、いつも手伝っていたの。
 でも、きょうはあまり楽しくないかもしれない。鈴木さんが木星に帰っちゃうんだ。
「ねぇ、おかあさん、お昼ごはん食べたらすこしだけ、鈴木さんとこへ行って来てもいい……?」
「いいわよ。でも、あまりおそくまでお邪魔したらだめよ。」
「うん、すぐ帰るから。」
 できれば、鈴木さんを見送ろうと思った。どんなふうにして木星に帰るのだろう。やっぱし、宇宙船に乗って……?
 アー、アー。
「あら、イチローさん、きょうは早いわね。」
 イチローが窓のうえにぽつんとすわっていた。
「お腹すいたのかな、もうすぐ、お掃除がおわるから、ちょっと、待っててね。」
 アー……。
 イチローは、わたしのことはちっとも気にしていないようすで、おかあさんばかりみていた。
 やっぱし、おかあさんのことが好きなんだ。
 わたしはちょっと、くやしかったけれど、おかあさんにイチローのことは話せないし、このまま、わたしだけのひみつにしておこうと思った。
 そうだ……、鈴木さんが帰ってしまったら、イチローはわたしとこの家猫になればいい。おとうさんはあまり猫が好きじゃないけれど、イチローのことは知っているから、だめとは言わないはず。イチローはもう、わたしとこの家族なんだから。
  
 お昼ごはんを食べてから、鈴木さんのお家へ行った。
 玄関のドアが開いていて、なかを覗いたらきのうあったはずの、下駄箱や、台所のテーブルや、冷蔵庫なんかがなくなっていて、まるで、空き家みたいだった。
「こんにちは……。」
 台所の奥の部屋から、鈴木さんが顔をだした。
「あら、あずきちゃん、いらっしゃい。」
 鈴木さんは雑巾を持っていて、窓や畳のふき掃除をしているみたいだった。
「さぁ、あがりなさい。もう、なにもないけど、まだ、あたしの家だからね。」
「うん……。」
 奥の部屋も空っぽだった。ベランダには履き古したサンダルが一足あるだけ。
「朝からね、古道具屋さんにみんな持って行ってもらったんだよ。ほとんどゴミだけどね。あ……、そうそう、あずきちゃん、ゆうべはありがとうね。イチローはよろこんでいたよ。」
「え、ほんとに?」
「うん、あずきちゃんに会えてよかったって……。」
 でも……、
「ねぇ、鈴木さん、イチローはいつか人間にもどれるかもしれないって言ってたけど、鈴木さんが帰ってしまっても、ほんとうにもどることができるのですか?」
「そうだねぇ、あたしの力じゃあ、無理だけどね……。」
「……それは、どういうこと?」
「うん、ジュピターに帰ってね、大王さまにご相談してみようと思ってるんだけど、大王さまはとても厳格なおひとだから……。」
 大王さま……って? あ……、そうか!
「じゃあ、鈴木さん、大王さまだったらイチローがいやだって言っても、人間にもどすことができるんですか?」
「あ……、それはね、まだわからないよ。たとえ、大王さまであっても、イチローが拒んだらできないかもしれない……。さいきんは、いろいろ問題があってね、あたしたち魔法使いもたいへんなんだよ。」
 もぉ……、木星のひとって、ややこしいんだからぁ。
 わたしはすこし、がっかりしたけれど、なんだか、希望が持てそうな気がした。

「ねぇ、鈴木さんは、どうやって帰るの?」
「あー、それはね、迎えの舟がやってくるんだよ。今夜ね。」
 え、舟で……?
「どこへやってくるの?」
「河川敷のグランドだよ。」
「少年野球の?」
「そうだよ、十二時にね。」
 そんなおそくに……。あ、でも、行きたい。
「あの……、わたし、見送りに行ってもいいですか?」
「へっ、あずきちゃんが?」
「うん。」
「うーん、そうだねぇ、あずきちゃんなら、許してもらえると思うけど……、真夜中だよ。だいじょうぶかい?」
「うん。だいじょうぶ。」
 今夜はおとうさんがいないから、なんとかなると思った。それに、おかあさんも、おばあちゃんも、寝ちゃったら朝まで起きないひとだから。
「じゃあ、いらっしゃい。もう、会えなくなっちゃうんだからね。さいごはちゃんとお別れしましょう。それもそれで、さみしくなっちゃうけどね……。」
「鈴木さん……。」
「ん、なんだい?」
「ありがとう。」
「……、どうしてだよ。おかしな子だね。」
「だって、鈴木さんがいなかったら、わたし、外山先生に会えなかったんだもの。だから、鈴木さんにお礼を言いたいの。ほんとうに、ありがとう。」
「あずきちゃん……、あたしこそ、ありがとう……。うれしいよ、そんなふうに言ってくれて、あたしみたいなだめな魔法使いに……、ほんとに……、ぐふうぅうう……。」
 鈴木さんは眼鏡をはずして、手のひらで顔をかくして泣いちゃったの。わたしもすこし、泣いちゃった……。
「じゃあ、河川敷で待っててね。わたしが行くまで帰らないでね……。」
 鈴木さんと約束して、わたしは家に帰った。

 目のまえは真っ暗だった。
 河川敷の向こうには、河をへだてた対岸の街の灯りがあったけれど、堤防から河川敷におりる階段は真っ暗で、もう、秋の虫がいっぱい鳴いていた。わたしは家から持ってきた、ちいさな懐中電灯を点けてゆっくり階段をおりた。
 おかあさんたちが寝ちゃったのは、十一時ごろだったから、いまは十一時半ごろだと思う。こっそり家をでて、急いで走ってきたからちょっと息がくるしかった。階段をおりたら、コンクリートの歩道があって、その歩道に沿ってサッカーや、ラグビーのできるひろいグランドがある。
 少年野球のグランドはそのとなりにあって、それほどおおきくないバックネットと、そのうしろに木製のベンチがいくつかならんでいた。バックネットに近づくと、だれかがベンチにすわっているのがみえた。
「鈴木さん……?」
 わたしは小声で呼びかけた。
「あー、あずきちゃん、あたしだよ。よく、来れたね。」
 鈴木さんはおおきな紙袋をひとつ、小脇においてベンチに腰かけていた。
「さぁ、こっちにおいで。」
 わたしは懐中電灯を消して、鈴木さんのよこにすわった。
 アー……。
 えっ、イチロー?
 イチローが鈴木さんの膝のうえで寝そべっていたからびっくりした。
「イチローもついてきたんだよ。」
「うん、そうだよね、イチローも、鈴木さんを見送りたいんだと思う。」
「ねぇ、あずきちゃん、この子も家がなくなっちゃうから、あずきちゃんとこへおいてくれないかねぇ。」
「うん。心配ないよ。わたし、もうそのつもりだから、おとうさんに頼んでみる。おかあさんはもちろん、いやだって言わないし、イチローもいやじゃないよね。」
 アー。
「そうかい……。じゃあ、この子をあずきちゃんに預けるから、つれて帰ってちょうだい。」
 鈴木さんはそう言って、イチローをわたしの膝のうえに乗せたの。イチローはまたすこし、やせたみたいだった。

「さぁ、ぼちぼち時間だね。」
 鈴木さんはおおきな紙袋を手にとって立ちあがると、バックネットの裏をまわって、グランドに向かってあるきはじめた。わたしも、イチローをだいてあとをついて行った。風はなかったけれど、とても涼しくてしずかな夜だった。
 鈴木さんは三塁ベースのあたりで立ち止まった。しばらく、ふたりならんで立っていたけれど、わたしはわけがわからなくて、小声で聞いたの。
「舟って、海からやってくるの……?」
「そうだよ、おおきな、おおきな海からね。……ほらっ、やってきたよ。」
 そう言って、鈴木さんは真上をみあげた。
 えっ、空なの……?

 あ……。

 なんだろう? 灰色のまるい雲のようなものが、星空に浮いていて音もなく、ぐんぐんおりてくる。あっ、すごい! もう、このグランドからはみでそうなおおきさになった。
「ね、きれいな舟だろう……。」
 鈴木さんはうっとりとした声でつぶやいた。
 えっ、これって、空飛ぶ円盤じゃん……! わたしはそう思った。
 円盤はグランドから三メートルほどの高さまでおりてきて静止した。わたしと鈴木さんは、おおきくてまるい天井のような円盤の下に立っていた。唖然としてみあげていると、灰色の天井がぼんやりあかるくなってきて、まるで、おおきな蛍光灯の下にいるみたいだった。
 すこし離れた円盤の底がすっと開いて、青白い灯りのなかから、滑り台のようなスロープがのびてグランドにくっついた。
 あ……、だれかおりてくる……。
 おおきなひとの影と、そのうしろにちいさなひとの影がふたつ、スロープのうえにみえた。
「え……、あのお姿は……、ユーピテルさま?」
 鈴木さんがだれかの名を呼んだの。
 ユーピテル……さま? あれっ、どこかで聞いたような気がする。
 おおきな影のそのひとは、ゆっくり、わたしたちに近づいてきた。サンタクロースのようなぶくぶくのコートを着て、しろい毛皮の帽子と長靴、それにごっつい手袋をして、その顔は赤毛の猫みたいに毛むじゃらだった……。
 あ、このひとはたしか、大王さま……?
 わたしは鈴木さんが描いていた大王さまの絵を思い出していた。

 ぐぉっ、ほっ、ほっ、ほっ、ほっ、ほっ……。

 え……。なに、このひと? いきなりおおきな声で笑ったの。
「いやいや、あいかわらず、地球はさぶいとこじゃ……。おー、アモル……、ながいことご苦労さまじゃった。元気にしておったか?」
「ユーピテルさま……、お久しゅうございます……。」
 鈴木さんは大王さまのまえに跪くと、両手を胸にあててふかくお辞儀をした。
 アモルって、鈴木さんのなまえなのかしら……。
「ふむ、ふむ、アモルもたいへんじゃったの。こんなさぶいとこでの。ジュピターに帰ったら、しばらくゆっくりしなさい。」
「ユーピテルさま、まことに申し訳ございません。このわたくしが、未熟者でございました。どうか、お許しをくださいませ……。」
 ぐぉっ、ほっ、ほっ、ほっ、ほっ、ほっ……。
「まぁ、いいではないか。それも修行の道じゃ。あまり気に病むでない……。さて……。」
 え……、わたし?
 大王さまがわたしをまっすぐみつめて、目をほそめたの。
「あんたが、あずきさんですかの?」
 あ、あんたって……、
「あ、はい。わたし、井上あずきです……。」
「ふむ、では、その子がイチローかの?」
「……はい、そうです。」
「ふむ、ふむ……。そうじゃったか、いやいや、会えてよかったの。」
「あの、もしかして……、おじさんは、木星の大王さまですか?」
 ぐぉっ、ほっ、ほっ、ほっ、ほっ、ほへ? おじさん……。
「うむ、そうじゃよ、わしが大王さまじゃ。」
 あ、やっぱしそうなんだ。
「アモル、あずきさんはわしのことを知っておったのかの?」
「あ……、はい。すこしだけ、お話しております……。」
 鈴木さんはそう言って、また、ふかくお辞儀をした。
「ふむ、そうじゃったか。では、あずきさん……、わしがどうして地球にやってきたのか、わかるかの?」
 ……うん、わかります。
「大王さま、わたし、お願いしたいことがあります……、聞いてもらえますか?」
「ふむ、なんじゃの、言ってごらん。」
「わたし、この子を人間にもどしてほしいのです。」
「ふむ、ふむ、人間にもどすのかの……。」
「はい。どうか、お願いします。」
「ぐふっ、ぐふっ、ぐふっ、あずきさん……、この子を、人間にもどすだけでいいのかの?」
 大王さまは、わたしの目をこわいほどにみつめたの。
 え……? ちょっとまって……、あれっ? あ……、あ、そうだ!
 一瞬、わたしのからだのなかで、オレンジ色のひかりの輪が、ぱちんって、弾けた気がした……。

 大王さま、この子を……、この、外山先生を……、中学生にもどしてくさい!

 ぐぉっ、ほっ、ほっ、ほっ、ほっ、ほっ……。
「いやいや、あずきさんはかしこい子じゃの。ふむ、ふむ、ふむ、じつはの、あずきさん、わしもそのつもりで地球にきたんじゃよ。」
「えっ、じゃあ……、できるんですか?」
「ふむ、それはの、その子に聞いてみてくれんかの。」
 あ……、そうだった、イチローの気持ちがだいじなんだ……。
 わたしは腕のなかのイチローとみつめ合って、ふたりの想いがひとつに重なることを祈った。
「イチロー……、もう、いいでしょう。ね、もどりましょうね。」
 アー……。
 イチローはちいさな声でへんじをすると、わたしの胸に顔をこすりつけたの。
 鈴木さんがうつむいたまま、泣いていた。
「ふむ、ふむ。そうか、それがいい。それがいいとも。じゃあ、あずきさん、その子をわしの腕に預けなさい。」
 そう言って、大王さまはおおきな両腕を、わたしのまえに差し出した。わたしはその腕のなかに、イチローをそっと預けたの。
 大王さまは抱きしめたイチローの、ちいさな頭のうえに右手をかざして、しずかに目を閉じた。
 そしたら、ぼんやり、大王さまのからだがオレンジ色にかがやきはじめて、イチローと、大王さまはオレンジ色のひかりの輪につつまれた。
 あ……、イチローのからだが、オレンジ色のガラスみたいに透けてゆく……。
 イチロー……。

 アー……。

 やがて、大王さまの腕のなかで、イチローは消えた。

「ふむ、あずきさん、あの子はぶじにもどりましたよ。もう、会えないかもしれんが、それは、しかたないことじゃ。あの子の時間を、もどしたのじゃからの。」
 うん……、いいの。
 きっと、どこかに、中学二年生にもどった外山先生がいる……、わたしはそれだけでうれしかった。
「大王さま……、わたし、かならず、会えると信じています。外山先生は、そんなに、とおくない未来に、きっと、また会えるって、言ってました。だから、わたし、信じています。」
 ぐぉっ、ほっ、ほっ、ほっ、ほっ、ほっ……。
「ふむ、ふむ、そうじゃったのか。あんたはほんとにかしこい子じゃ。未来はの、信じなければやってこないもんじゃ。それがいい、それがいいとも。」
 ぐぉっ、ほっ、ほっ、ほっ、ほっ、ほへっ……、へっ、へーくっしょん!
「ユーピテルさま!」
「ぐふ……、アモル、そろそろ、帰るかの。」
「はい。ありがとうございました。」
 鈴木さん……。
「あずきちゃん、じゃあ、お元気でね。」
「うん、鈴木さんも……。」
 あれ……、鈴木さん?
 気がつくと、わたしのまえにとてもきれいな、若い女のひとが立っていたの。
 えっ、これがほんとうの鈴木さんの姿なの……? わたしはなんだか、うれしくって、泣いちゃいそうだった。
 鈴木さんと、大王さまはスロープに向かって、ゆっくりあるいて行った。そうして、青白い灯りのなかに立って、わたしに手をふってくれた。
 さようなら……。
 わたしもちいさく、手をふった。

 あかるい星空に、灰色の円盤は音もなく吸い込まれて行った。
 ちいさな、ちいさな、オレンジ色のひかりの輪をひとつ、地球にのこして……。


                  つづく












散文(批評随筆小説等) あずきの恋人 (連載⑪) Copyright たま 2013-01-20 10:59:05
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