サンタになんか永遠になれない
夏美かをる

子供が生まれて初めてのクリスマス・イブの朝
旦那がプレゼントは何を用意したか?と訊いたので
「絵本とぬいぐるみ」と答えると
「そんなんじゃ、全然足りない!」と言い放って家を飛び出して行き、
まだクリスマス云々も全く分からない赤ん坊のために、
使えもしないおもちゃやがらくたを20個も買ってきた
なんでも、大きなクリスマスツリーの足元いっぱいに
プレゼントが並んでいないとだめらしい

クリスマスの日に旦那の親戚が集まって必ず食べるものはハム
つけあわせはニンジンとグリーンピース
パイは食べるけれども、いわゆるクリスマスケーキというものは
この国には存在しない

そして大人・子供併せ、家族、親戚達にプレゼントを贈りまくる
そのためにローンを組む人までいるとか!

なんと言っても一番大事なことは、家族、親戚一同が集まってお祝いすること
この日に恋人とデートなんて、もってのほか


同じクリスマスでも随分違うものだ
もっともキリスト教が根付くこの国の祝い方が正統といえば正統なんだろうけど

 
今年のイブの夜は 娘達が眠ってから
親戚の分も併せて、40個のプレゼントをラッピング
終わったのは夜中の2時

当日は興奮して朝6時に目を覚ました娘達に起こされ
仕方ないので、そのまま パーティに持っていく食べ物を作る
“何か日本的なものをお願い”とリクエストされたので
おはぎを持っていくつもりが、寝ぼけて水加減を間違い、大失敗
ご飯を炊き直しておにぎりに変更
とんだてんやわんや
でもね、結局、何を作って持って行っても、私の皿だけ殆ど手をつけられない
なのに毎年頼まれる“日本的なもの”
お飾りでいいのなら、来年からは蝋でできたサンプルを持って行きましょうか?
そっちの方がずっと見かけが奇麗ですよ 
しかも毎年使えるし…


日付が変わって
家の外側と庭のデコレーションライトを消す
大きなツリーの前散らかしっぱなしのフロアーに静寂が戻る
やっと終わった
アメリカに来てから13回目のクリスマス
最初の何回かは、
パーティの帰り、車の中で決まって涙が溢れた
家族と離れて暮らしたことのない旦那には理解できない涙
まだいくらか私にしおらしさが残っていた頃のこと


娘達はプレゼントの山に囲まれ大満足しながら眠りに落ちた
その寝顔を見て 母の声を思い出す
「サンタさんが入ってこれるように今晩は玄関のカギを開けておくからね」

家族5人で下町の団地に住んでいた頃
この日に食べる大のご馳走は鶏の丸焼き
普段何もしない父が、この時だけはナイフを握り
きれいに切り分けてお皿に乗せてくれた
デザートは勿論真っ赤な苺の乗ったショートケーキ
そして枕元に置かれていたプレゼント
そのたった一つのスペシャルな宝物を
幾夜も抱いて寝たっけ

お母さん…
誰かの幸せって
誰かの犠牲の上に成り立っていたのですね


娘達はもうすぐサンタの正体を知るだろう
だが 人を喜ばせることを心から喜ぶ余裕もない、
自称仏教徒のアメリカに住む日本人である私は
本当のサンタになんか永遠になれないのかもしれない


自由詩 サンタになんか永遠になれない Copyright 夏美かをる 2012-12-27 15:44:36
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